目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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      父の日や買い物メモを形見とす   津 市  加藤 佳子

父自身のメモと解釈すれば、買い物をするほど元気だったと想像できる。独り暮らしだったのかもしれない。死から間もない句だろう。       【 正木 ゆう子 選 】


    再生の力をもてる青蜥蜴するどく逃げて草むらに入る
                             横浜市  本多 豊明

「するどく逃げて」というところが青蜥蜴(とかげ)の行動を活写してよい。ただ逃げるのではなく、するどく逃げる。尻尾を捨てても平気。われわれにも欲しい、この再生の力が。                                【 小池  光 選 】


    桑の実の落ちて地に染む高さかな   相模原市  大谷 千恵子

大きな桑の木の下は、紫の染みだらけ。よく熟れているからだし、高い処(ところ)から落ちるので、潰れるのだ。除(よ)けて歩くだけでなく、高さまで意識し、ちゃんと句にする人は希(まれ)。                       【 正木 ゆう子 選 】


    父の日や引き出し奥の肥後守   東京都  樋山 和夫

かつての少年の日の必需品であった「肥後守(ひごにかみ)」。 これ一つで草木も切ったし、工作にも使い、小動物も捌(さば)いた。いまも引出しの奥にある。引出しの奥は即(すなわ)ち父の胸の奥だ。            【 宇多 喜代子 選 】


    溶接のマスク蹴飛ばし三尺寝   小平市  七木田 清助

三尺寝は職人の昼寝。 溶接に用いたマスクを足元に置いて眠っているのだ。 ごたごたとものが暑苦しく置かれた町工場が見えてくる。       【 矢島 渚男 選 】


    青大将素手で飛ばして野良仕事   北本市  萩原 行博

野外で農作業をしていたら、大きな青大将が出てきた。 道具も使わず、素手で投げ飛ばして仕事を続ける。蛇が傷つかないのもいい。    【 矢島 渚男 選 】



葬儀にて初めて知りし洗礼名六十歳の隣の奥様
                            川口市  広田 絹子

60歳という若さで亡くなった隣家の奥様。葬儀に参列して、その人の洗礼名を初めて知った。 もう一つの名を通して、 隣人との思い出が味わい深く反芻(はんすう)されている。                              【 栗木 京子 選 】


今日捥ぐか明日まで待つか初茄子   白井市  毘舎利 愛子

初茄子(なすび)。さていま捥(も)ぐか、明日にするか、そんなことをおもいつつ茄子の前に立っている。初物にたいする喜びの様子が共感を呼ぶ。
                                   【 宇多 喜代子 選 】


    母の家も江戸風鈴を吊(つる)す頃   小川 晴子 ( おがわ はるこ )

江戸風鈴はガラスの風鈴。ガラスの玉に金魚や花火の涼しい絵が描いてある。どこかで江戸風鈴が鳴って、生まれ育った家の夏のたたずまいを思い出した。母を懐かしみ、子どものころの夏を懐かしむ一句である。句集『今日の花』から。
                      【 '19.06.26 四季 ・ 長谷川 櫂 選 】 


    その日より七十年の大夏木   島田 藤江 ( しまだ ふじえ )

空をおおうように茂る樟(くす)か欅(けやき)か。 昭和20年8月15日の敗戦の日も その木はそこに立っていた。 まだ若々しい姿で。 そしてその日から歳月を ともに生きてきた。 そっとたたずんで。時代が巡っても樹木は動かない。句集『泥眼(でいがん)』から。               【 '19.06.24 四季 ・ 長谷川 櫂 選 】 


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