目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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  はつ春に風鈴ちりとそよぎたり何かを思い出したのだろう
                              草加市  松岡 拓司

あるかないかの風に反応した風鈴。ささやかなことへの心寄せが、擬人化によって魅力的に伝わってくる。                        【 俵  万智 選 】


   鶯餅裏山は今こんな色   佐藤 郁良 ( さとう いくら )

前山は家の前にある山、裏山は裏にある山。前山は日々眺める山だが、裏山は始終感じている山。たとえその家にもう住んでなくても。薄緑の粉にまみれた鶯(うぐいす)餅を見て、いつも自分の背後にある山の春を想像した。句集『しなてるや』から。                    【 '19.01.31 四季 ・ 長谷川 櫂 選 】 


分け入らば蛇身とならむ草いきれ   羽村市  竹田 元子

この草叢(くさむら)へ踏み入ったならば、蛇に化身してしまうのではないか。清姫伝説を踏まえ「草いきれ」への恐れを身に引き入れて表現した。年間を通して 「どくだみの国あり暗く栄えをり」 「紅茸を蹴り青木ヶ原に入る」 「雪虫の羽音か犬の振り向くは」 などの秀作があり、自然の中に確固たる自分を据えた作風が美事であった。                                  【 矢島 渚男 選 】

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   これよりの短い未来盆の月   佐賀市  栗林 美津子

未来という二字が輝かしく身にそうのは、これからなにごとかを成そうとする若者。その未来を年配者である栗林さんはわが志向としている。たとえ短くても、年配者のものであっても未来はやはり輝かしい。盆がすんだら友人に会おう、今年中にあの本を読もう、春にはお花見吟行をしたい、これみな明るい未来。そんな未来に乾杯。                                【 宇多 喜代子 選 】

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   雪掻けば所得たりと降り積もる   富士宮市  高橋 武久

雪掻(か)きをして地面が空くと、新たに降り積もる様子が、そこだけ目立って見えるのだろう。本当はまんべんなく降っているのに、空いた場所を狙って雪が降るように感じられるのだ。 雪が優位であり、 雪に気圧(けお)されている気分が、中七からひしひしと伝わる。見ることと思うことと言葉が、しっかりと一体化した句として、印象深い。                                【 正木 ゆう子 選 】
 
 
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   扇風機足でオンオフ風量も   寝屋川市  岩本 利美

扇風機の操作を手ではなく、足指で行っている。つける消すのみならず風量の調整までやっている。無精ではなく、手は別の仕事のために使っていそうである。きびきびしている。「オンオフ」という外来語の使用を含め、批判もあろうが、僕は評価する。生活に即した新しさがある。あくまで自由な感じがすばらしいのだ。
                                    
【 小澤  實 選 】


鮟鱇は生きるむなしさ知りし貌(かお)   東京都  小暮 喜代子

たぶん、鉤(かぎ)に吊(つる)されている鮟鱇(あんこう)。諦めて為(な)すに任せるまま。こんな角度で端的に詠った句は珍しい。          【 矢島 渚男 選 】


   大根も大根穴も暮れて行く   むつ市  畑中 月穂

大根を抜いて、その辺りに放置してある。抜き去った穴は暗黒であり、大根は白々としているが、ともに大きな闇に包まれていく。モノクロームの諧調を楽しむ。
                                     
【 小澤  實 選 】


   雌一羽雄二羽の鴨心配す   白井市  毘舎利 愛子

池に鴨(かも)が浮かんでいる。雌が一羽いるのに対して、雄は二羽もいる。作者は三角関係を心配しているらしい。「心配す」 に微笑する。  
【 小澤  實 選 】


まだ誰も下を通らぬ初御空   千葉市  中村 重雄

まっさらな正月の空。人跡未踏の世界である。払暁の清純な空のひろがりが見える。「初御空」とはこういう空のことだろうと思わせる。     【 宇多 喜代子 選 】


  老いの身のしがらみを断つさみしさに君もひとりで耐えいるならむ
                             久留米市  塩山 雅之

老年の身に自然にからまってきた血縁、地縁など、多くの縁を、時の経過の中でもはや思い絶とうとする、その淋(さび)しさに耐えている、心の友への共感の歌である。                                   【 岡野 弘彦 選 】


   賞受くる羽生結弦が颯爽と仙台平のはかま着こなす
                            北九州市  白木 典子

ここ2・3年、リンクで見る羽生結弦選手の、文字通り水際立った姿に元気をもらってきたが、先日の和服姿には更に新しい勇気をもらった。実にさわやかで 身についていました。 さすがに女性の眼(め)はそれをのがさず、 すがすがしい一首の形で、その印象をとらえ得ています。                    【 岡野 弘彦 選 】


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  鉄棒に逆上がり好きな少女なりき 97歳 カートに歩く
                            四街道市  出浦 章子

子供のころはおてんばだった。鉄棒が得意で、くるくる逆上がりするのが好きだった。いま97歳になって、器具の助けによって歩く。四句に前後一字あけして出現する「97歳」の数字に言い知れぬ迫力と重みがあり、読む者をはっとさせる。生きるとはこういうことなのである。                        【 小池  光 選 】

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   四度目の元号迎へんと来し方に想い馳せつつ残星を見る
                            生駒市  岩本 喜代

2019年5月1日から新元号が始まる。平成の30年余りを振り返り、新しい時代への展望を詠む歌が多かった中で、この歌は大正生まれの作者が4度目の元号を迎える感慨を詠んでいるところに重みがある。残星は、夜明けの空に残って光る星。朝空を仰ぐ作者の姿に清らかな力を感じた。        【栗本 京子 選 】
 
  
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  この夏のお試しですと渡されたような四月の夏日楽しむ
                            平塚市  小林 真希子

異常な気候の多かった一年だが、こんなふうに前向きに受けとめる方法がある。歌のうまさに加え、読む者をポジティブな気持ちにさせてくれるところが魅力。「お試し」がいい。長くは続かないし、心の準備にもなる。小林さんは年間を通じ、季節の推移や自然を、現代的で新鮮な切り口で詠んでくれた。      【 俵  万智 選 】


   卓袱台の小さき聖菓燦(さん)として   小平市  七木田 清助

茶の間の卓袱台(ちゃぶだい)の上に小さなクリスマスケーキを置いて、聖夜を過ごしている。昭和のクリスマスの回想かもしれないが、この空間に聖なるものが宿っているのを感じる。                           
【 小澤  實 選 】


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