目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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      緋の牡丹色の重さに崩れ落つ   横浜市  小林 千秋

緋(ひ)色の牡丹は秘色であるがゆえにその豪華が人目をひくその牡丹が崩れる。中七がうまい。                            【 宇多 喜代子 選 】


      蛇消えし時より蛇の時間かな   北本市  萩原 行博

動いていた蛇が目の前から消えた。その後、見えなくなった蛇が動いていたときより鮮明に眼裏(まなうら)によみがえる。現物の蛇、蛇という言葉から見える蛇、眼裏の蛇、三つが一つになって作者の記憶にとどまる。       【 宇多 喜代子 選 】


      ガレー船奴隷が漕ぐや大百足虫(むかで)   川越市  益子 さとし 

大きな百足の足の波打つような動きに、ガレー船の奴隷たちが漕ぐオールの動きを想像しているわけだ。ガレー船はヨーロッパの海で活躍した軍船。かなりの想像力だ。                                  【 小澤  實 選 】 


      梅雨半ばそれらしく降る今日の雨   八王子市  茂田 和政

しとしとと降る雨。ちょっと前まで、梅雨とはこういうものだった。ところが今は、梅雨といえば豪雨。この句の穏やかさが悲しいほど。         【 正木 ゆう子 選 】


飛び上がる力は見せず青蛙   前橋市  深沢 桂子 

蛙(かえる)は春の季語。夏に目につくのは青蛙・雨蛙など。雨が近づくと出てきて飛んだり跳ねたりする。その跳躍力はまことにスマート。    【 宇多 喜代子 選 】


      鷹の子に蛇蛙また蛇蜥蜴   津市  中山 道春

親の鷹(たか)が雛(ひな)にさまざまな餌を捕らえもたらす。それを具体的に描いた。鷹の巣へと設置された固定カメラの映像のようだ。多くの季語を含むが、中心は鷹の子である。                           【 小澤  實 選 】 


    私にも優しいあの子の完璧なポニーテールがただしくゆれる
                            札幌市   三浦 なつ

優しくしてくれるのはありがたいが、「私」は優しさの質を見抜いている。それは「誰にも優しく」という正しさに基づいたものなのだ。結句には、優等生への批判が感じられる。                                【 俵  万智 選 】 


      すれちがふとき耳打ちす蟻と蟻   松山市  久保  栞

読み下ろしていくと、人間の動作であると思っていたものが、蟻(あり)の動きであって驚く。巣に帰るありと巣を出る蟻とが情報を共有する。   【 小澤  實 選 】 


      セリヌンティウス吾にはおらず桜桃忌   川越市  横山 由紀子

セリヌンティウスは太宰治の小説「走れメロス」に登場するメロスの親友。メロスは彼の命を守るために走った。そんな友人が自分にはいないことを太宰の忌日に嘆く。
                                    【 小澤  實 選 】 


      根切虫存在価値を持たず生く   福山市  広本 貢一

大切な草木を枯らす根切虫は憎まれ者だが、存在するものは、みな何か理由がある。人間の価値観で決めつけてはいけないが、面白い。  【 矢島 渚男 選 】,



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