目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
樺美智子の百合匂う墓人知れず 神奈川県 井上 正
訪れた樺美智子さんの墓に、だれが供えたのだろうか、ユリの花が匂っていた。彼女は私と同学科の後輩だった。一人の若い尊い死が、今も重い意味を持って迫る。
【 矢島 渚男 選 】
訪れた樺美智子さんの墓に、だれが供えたのだろうか、ユリの花が匂っていた。彼女は私と同学科の後輩だった。一人の若い尊い死が、今も重い意味を持って迫る。
【 矢島 渚男 選 】
塩ふられ揉まれて胡瓜痛いだろう 松山市 久保 栞
胡瓜揉(も)みの胡瓜になりきって、その身の上を心配しているというわけだ。確かに痛そう。アニミズム俳句といえよう。ひとたび人間から離れてみるのも、おもしろい。
【 小澤 實 選 】
胡瓜揉(も)みの胡瓜になりきって、その身の上を心配しているというわけだ。確かに痛そう。アニミズム俳句といえよう。ひとたび人間から離れてみるのも、おもしろい。
【 小澤 實 選 】
背負はれて遊びし記憶はるかなり遺影は若き軍服のまま
神戸市 福家 博子
作者の詞書(ことばがき)によると、年若い叔父で「にいちゃん」と呼んで甘えていたその人は航空兵となり、再び帰らなかったという。戦争の記憶は、遠いようで近い。
【 岡野 弘彦 選 】
神戸市 福家 博子
作者の詞書(ことばがき)によると、年若い叔父で「にいちゃん」と呼んで甘えていたその人は航空兵となり、再び帰らなかったという。戦争の記憶は、遠いようで近い。
【 岡野 弘彦 選 】
わが死なばこの山畑は荒れはてむ若葉の谷にほととぎす鳴く
旭 市 寺島 志津子
上の句の切迫した予想は、後継者のない過疎の山村に老いてゆく人々がひとしく抱く思いである。荒廃してゆく日本の山村を嘆くかのように鋭く鳴く時鳥(ほととぎす)の声。 【 岡野 弘彦 選 】
旭 市 寺島 志津子
上の句の切迫した予想は、後継者のない過疎の山村に老いてゆく人々がひとしく抱く思いである。荒廃してゆく日本の山村を嘆くかのように鋭く鳴く時鳥(ほととぎす)の声。 【 岡野 弘彦 選 】
漬物石を川に戻して頭下げ老女は過疎の村を去りゆく
所沢市 鈴木 照興
河原から拾ってきた石を漬物の重石(おもし)にしていた女性。村を去るにあたって川に返しに行った。住んでいた土地への慈しみが伝わってくる。過疎の村であるところが切ない。 【 栗木 京子 選 】
所沢市 鈴木 照興
河原から拾ってきた石を漬物の重石(おもし)にしていた女性。村を去るにあたって川に返しに行った。住んでいた土地への慈しみが伝わってくる。過疎の村であるところが切ない。 【 栗木 京子 選 】
畑のもの洗っただけの夏料理 三条市 星野 愛
この 「畑のもの」は、殊更の料理無用の夏野菜。 胡瓜(きゅうり)もトマトもざっと洗っただけで皿に載る。 現今、これにまさる贅沢(ぜいたく)はなかろう。
【 宇多 喜代子 選 】
この 「畑のもの」は、殊更の料理無用の夏野菜。 胡瓜(きゅうり)もトマトもざっと洗っただけで皿に載る。 現今、これにまさる贅沢(ぜいたく)はなかろう。
【 宇多 喜代子 選 】
梅雨の蝶少年院の塀を越す 小金井市 高橋 広子
恵まれないさまざまな境涯を負って収容されている少年たちに思いが行く。あたかも慰問するかのように塀を越してゆく蝶。 【 矢島 渚男 選 】
恵まれないさまざまな境涯を負って収容されている少年たちに思いが行く。あたかも慰問するかのように塀を越してゆく蝶。 【 矢島 渚男 選 】
抜歯して鏡の中に驚きぬ一瞬父が居るではないか
前橋市 豊嶋 秋生
抜歯すると少し顔付きが変わる場合がある。 鏡に写したら、 まざまざと老いたる父親の顔がそこにあった。 下句のリズムが軽快、的確で いかにも一瞬の驚きを伝える。 【 小池 光 選 】
前橋市 豊嶋 秋生
抜歯すると少し顔付きが変わる場合がある。 鏡に写したら、 まざまざと老いたる父親の顔がそこにあった。 下句のリズムが軽快、的確で いかにも一瞬の驚きを伝える。 【 小池 光 選 】
友らみな去りてすべなし眼裏(まなうら)に常(つね)うかびくる一(いち)人のあり
上尾市 大平 丈一
作者は90歳。 記憶もおぼろになってゆく中で、 くり返し胸に浮かんでくる一人の面影があるという。 この下の句によって、この一首は力づよく生きている。
【 岡野 弘彦 選 】
上尾市 大平 丈一
作者は90歳。 記憶もおぼろになってゆく中で、 くり返し胸に浮かんでくる一人の面影があるという。 この下の句によって、この一首は力づよく生きている。
【 岡野 弘彦 選 】
梅雨蝶の樹より湧き出(い)ではや交(つる)む 枚方市 加藤 賢
樹から梅雨時の蝶がたくさん飛び出して来て、そのいくつかがもう交尾しているというのだ。 まるで熱帯のジャングルの中のように、命が満ち満ちているのを感じる。
【 小澤 實 選 】
樹から梅雨時の蝶がたくさん飛び出して来て、そのいくつかがもう交尾しているというのだ。 まるで熱帯のジャングルの中のように、命が満ち満ちているのを感じる。
【 小澤 實 選 】