目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   保育器に心臓の音雪ふる日   市川市  住吉 たけのり  

何らかの理由で保育器に入っている赤ちゃん。 雪の降るしずかな日、赤ちゃんは小さなからだで精一杯生きている。小さな鼓動が大音響に聞こえる。
                                   【 宇多 喜代子 選 】

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   秋夕焼(あきゆやけ)赤黒き1000gの吾子
                東国原 英夫 ( ひがしこくばる ひでお )
                    【 07.09.07 TBS「プレバト」  夏井 いつき 選 】


   雑煮食べをり餓死兵のことをふと   香取市  関  沼男

シベリア抑留の悲惨な体験を詠(うた)っている人。 雑煮を食べながら、餓死した仲間の戦友たちを思い出す。この国際法違反の事実をなぜ世界に訴えずにきたのだろう。                              【 矢島 渚男 選 】


  落ちてゐるのはおほかた右手寒空に素手でなくては掴めぬ何か
                              海南市  寺杣 明子

右の手袋が落ちているのだが、右手そのものが落ちているようでドキリとする。利き手の手袋をはずして掴もうとしたものは何なのか。見えない何かだったのかも。
                                    【 栗木 京子 選 】 


   省略の過ぎて海鼠となりにけり   奥山 源丘 ( みなもと げんきゅう )

「蛇、長すぎる」というルナールの詩にならえば、「海鼠(なまこ)、単純すぎる」となるのだろうか。たしかに海鼠は生物の中では単純な部類に属する。ただそれは人間からみてのこと。海鼠からみれば「人間、複雑すぎる」。句集『山火の勢(きおい)』から。                    【 '17.11.21 四季 ・ 長谷川 櫂 選 】


   さみしさに負けない麒麟日向ぼこ   椿  良松

動物園に行くたび熱帯産のキリンなどは寒くないか、と心配するが、結構元気そうにしている。 でも、長い頸(くび)を上げて遠くを見ているようで可哀(かわい)そう。 孤独に耐えているのか。                      【 矢島 渚男 選 】


   冬至晴そんな一と日でありにけり   前橋市  豊嶋 和夫

冬至の日、12月とも思えないようないい天気。大きな出来事でも何でもないこんなささやかな感慨を抱く。                    【 宇多 喜代子 選 】 


  動かぬは如何なるちから幾年を書棚の真中に立つ『夜と霧』
                               海南市  寺杣 明子

フランクルの歴史的名著『夜と霧』。わが書架の中央に立って幾十年、まるで本棚の王者のごとし。古典とはかくのごときものであろう。       【 小池  光 選 】


  人念(も)えと人忘れよと陰影(かげ)ふかくあじさいゆらぐ午後に食卓
                              東京都  長田 裕子

最近は「あじさい」にも多様な色変りができたが、もともと花色が時期により変る花だ。その特色を巧みにとり入れて、人情の変化とひびき合わせた上の句の表現。そして下の句のおっとりした収め方、一首の構成への心配りがまことに心ゆきとどいてみごとである。                             【 岡野 弘彦 選 】

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  尼寺のおたまじゃくしに足が生(は)えこのしずけさに鳥肌が立つ 
                     竜ヶ崎市  矢矧 (やはぎ?) 菜穂吉

ふしぎなイメージを喚起する歌。尼寺に池があっておたまじゃくしがうようよ泳いでいる。そのおたまじゃくしに足が生える。自然の摂理といえば摂理だ。しーんとしてあたりに誰もいない。ふと鳥肌が立つという感覚は、実にするどく、共感する。
                                      【 小池  光 選 】

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  川挟みラジオ体操する人のジャンプのずれの愉しかりけり
                              松山市  宇和上 正

情景の中に「動き」を入れると歌が生き生きとする。この歌はラジオ体操の音楽に合わせてジャンプする人に目をとめている。その動きが微妙にずれているところがポイント。揃(そろ)わないことで、人々の動きに親近感が伝わった。さらに、川を挟んで眺めていることも歌の空間に広がりを添えている。       【 栗木 京子 選 】 

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  地下書庫の資料をめざし百年をエレベーターで一気にくだる
                            八王子市  阪本 ひろ子

図書館等での調べものの場面だろう。百年前の資料を手にする時の、わくわく感が伝わってくる。エレベーターを、時をさかのぼる乗り物として、タイムマシーンのように表現したところが魅力だ。思えば、文字というのはタイムカプセルでもある。現在形の結句が、臨場感と勢いを感じさせて、効果的。        【 俵  万智 選 】


   堤防に立てば初富士初筑波   加須市  野口 勇一

この堤防なるところいい場所ではないか。いつも見ている富士山に筑波山が一夜で「初富士初筑波」となる不思議。              【 宇多 喜代子 選 】


   凧あげて伊勢のよき風子に持たす   津 市  中山 道春

親子で凧(たこ)揚げをする。はじめのところは父が操り、風に乗ったところで子に渡す。あとは「伊勢のよき風」にまかせる。父子の絆、在所の絆の濃さがにじむ。
                                   【 宇多 喜代子 選 】


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