目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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■湯の峰の湯屋で聞き入る虫の声親ありし世のとほき日を恋ふ
                        神戸市  川村 幸作
熊野詣での湯垢離(ゆごり)場の湯の峰温泉は説教浄瑠璃「小栗判官」にもあるように、昔から人々の心を幽暗な伝承と信仰の世界に引き入れる神秘な場所だった。この一首にも、関西に住む作者らしい世々の日本人の心が、永い伝統を伝える短歌の定型を通して流露している。親は両親でもあり、更に古い遠世の祖(おや)でもある。        【 岡野 弘彦 選 】


■自づから笑みのこぼれて帽子とり山の祠(ほこら)に一つを願ふ
                        直方市  住田 則雄
一読明瞭だが、明瞭にしてどこかに解き難い謎がある、というのに魅かれる。短歌に限らず芸術作品はみなそういうものだろう。どうして、自づから笑みがこぼれたのだろう。  また何を願ったものだろう。作者は一切教えてくれない。でも、なんとなく解るではないか。とても奥のある笑いだ。 【 小池  光 選 】


■空襲の慰霊堂より帰る途(みち)スカイツリーが車窓より見ゆ
                        船橋市  内田 蟷螂
螂東京都墨田区に建設中の東京スカイツリー。新名所として人気が高まり、連日多くの人たちが見物に訪れている。だが忘れてならないのは、ここが昭和20年3月の大空襲などで多大な被害を受けた地域であること。慰霊堂とスカイツリーを対置したこの歌から、作者の真摯な訴えが伝わってくる。
                               【 栗木 京子 選 】

■理髪店の主が鏡の新緑に息吹きかけてみがいておりぬ
                         東京都  小菅 暢子
かがやく初夏の街角を、映画の一コマのように印象的に切り取った一首。 実際は「鏡」に息を吹きかけて磨いているのだが、「新緑に」という文脈にしたところが粋だ。そう見えるという発見でもあるし、本当にそうなのかも、という気分も漂う。昨年の小菅さんは、質、量ともに群を抜いて充実していた。 
                                 【 俵 万智 選 】


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