目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   一輪の花摘みバイカル湖を発ちぬ   吉森 美信 

作者はシベリアに抑留された人。永かった苦難の後に帰国の日がようやくやってきたのだ。異国に別れる日、バイカル湖畔に咲く一輪の花を摘んだ。記憶の底にいまも咲く。                                 【 矢島 渚男 選 】


   肉声は一人にひとつ四月くる   塩尻市  神戸 千寛

なるほど顔が違うように声もまた違うのであろう。 すこしずつでもみんな違う人間。 季語は難しいが、「四月」はかなり適切。 入学式での「ハイ」の返事を思わせる。 
                                    【 矢島 渚男 選 】


   あの人もこの人も居ず桜咲く   横浜市  遠矢 時子

原句は「桜散る」だが、この内容であれば、季語は逆に「咲く」と明るくした方が引き立つ。年齢を重ねるにつれ同様の思いは深い。         【 正木 ゆう子 選 】


   子は声に花びら付けて帰り来ぬ   福岡市  後藤 啓之

桜の花弁が髪に付くのなら普通だが、声に付く? 聞いたことのない表現ながら、ちゃんと子供の様子が浮かぶ。美しいものを見た喜びに、声を弾ませて帰ってきたのだろう。                                 【 正木 ゆう子 選 】


   少年の足はみだして花筵   熊本市  田村 三渓

去年までは少年相応の体格だったのに、急に大きくなり、花見の茣蓙(ござ)には おさまらなくなった。 花見にきて、花ならぬ少年に奪われた目。 すくすく育っている少年が眩(まばゆ)い。                     【 宇多 喜代子 選 】


   今日寂しきひとの数だけ桜咲く   東京都  稲垣 みち子

満開の桜に群れる人々。作者は、人はみんな寂しいのだと言いたいのである。大胆な断定だ。                            【 矢島 渚男 選 】


   花盛り獏が一頭寝てをりぬ   門真市  奥中 渓水

本物の獏は足が短くずんぐりとした体形。 いま一つ、人の悪夢を食ってくれる想像上の獏がいる。この二つが一つになったような人が寝ている。愛すべき人だ。花時の長閑な情感の句。                         【 宇多 喜代子 選 】


   失いしもののひとつに万愚節   郡山市  高木 茂子

戦後流行したエイプリル・フールの嘘(うそ)も最近は下火になったが、この句はそうした風俗ではなく、自分の生活から、それが失われてしまったと嘆く。
冗談に笑ってくれる家族がいなければならないからだ。     【 矢島 渚男 選 】


   白魚網水のかたまり掬ふやう   水戸市  中崎 正紀

水のように半透明な白魚の漁。 それは水の塊を掬 (すく) っているようだ、 という確かな写実句である。                      【 矢島 渚男 選 】


   ひとひらはそらのはてまで山桜  稲沢市  杉山 一三

山桜一枚の花びらが風にのって高く舞い上がり、見えなくなるところへ消えていった。平かな表記の柔らかさが花びらのように見える。      【 宇多 喜代子 選 】


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