目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   畑のもの洗っただけの夏料理   三条市  星野  愛

この 「畑のもの」は、殊更の料理無用の夏野菜。 胡瓜(きゅうり)もトマトもざっと洗っただけで皿に載る。 現今、これにまさる贅沢(ぜいたく)はなかろう。
                                   【 宇多 喜代子 選 】


   梅雨の蝶少年院の塀を越す   小金井市  高橋 広子

恵まれないさまざまな境涯を負って収容されている少年たちに思いが行く。あたかも慰問するかのように塀を越してゆく蝶。              【 矢島 渚男 選 】


  抜歯して鏡の中に驚きぬ一瞬父が居るではないか
                            前橋市  豊嶋 秋生

抜歯すると少し顔付きが変わる場合がある。 鏡に写したら、 まざまざと老いたる父親の顔がそこにあった。 下句のリズムが軽快、的確で いかにも一瞬の驚きを伝える。                                   【 小池  光 選 】


友らみな去りてすべなし眼裏(まなうら)に常(つね)うかびくる一(いち)人のあり
                             上尾市  大平 丈一

作者は90歳。 記憶もおぼろになってゆく中で、 くり返し胸に浮かんでくる一人の面影があるという。 この下の句によって、この一首は力づよく生きている。   
                                    【 岡野 弘彦 選 】


   梅雨蝶の樹より湧き出(い)ではや交(つる)む   枚方市  加藤  賢

樹から梅雨時の蝶がたくさん飛び出して来て、そのいくつかがもう交尾しているというのだ。 まるで熱帯のジャングルの中のように、命が満ち満ちているのを感じる。 
                                     【 小澤  實 選 】


   池の色羽に吸ひ上ぐ蜻蛉の子   東京都  金井 文美

葉っぱが葉脈に水を吸い上げるように、羽もまた水を吸うという連想。水でも湖でもなく、「池」がいい。稚(いとけな)い蜻蛉(とんぼ)には、池が似合う。 
 
                                    【 正木 ゆう子 選 】


    今この滝何万年を後ずさり   横浜市  小野寺 洋

水に削られて、滝は少しずつ上流へと後退している。 悠久の時をかけての変化なので目には見えないが、滝はいま、この瞬間も後退中。    【 正木 ゆう子 選 】

  先日の「ブラタモリ」の中で、タモさんが案内人と似たような会話をしていました。


   水の裏のぞく金魚の自在かな   高砂市  池田喜代持

この金魚もだれにも邪魔されずに自在に泳いでいる。 「水の裏」 とはどこかなどと詮索したくなる。 たとえば人が見ている水面は水の表。 水中から見れば裏か。 
                                   【 宇多 喜代子 選 】


  海に降る雨ながめつついつの日も敗者でありし身を思ふなり
                             垂水市  岩元 秀人

海に降りしきる雨に鬱(うつ)うつとして見入りながら思い沈む、常に敗者の側にあったわが境遇。作者に限らず人は時に、こういう深い内省の時を持つことがある。
                                    【 岡野 弘彦 選 】


   鮎だよと今日は飲む気の友来る   平塚市  中村 寛明

釣りの解禁日だろうか。 釣りたての鮎(あゆ)を携えて友人が上がり込んできた。 此奴(こいつ)、飲もうというつもりだな。 待ってました。 今宵はいい酒になりそうだ。  
                                    【 矢島 渚男 選 】


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