目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   曖昧なものは脱ぎ捨て冬木立   東京都  藤田 柾子

多くの葉が枯れ落ち、少しばかり残った木々の葉。落ちそうで落ちない。暮れ方の残照。まだ少しあたりのものが見える。ああ、曖昧。     【 宇多 喜代子 選 】


   山藤の実の弾けたる音と言ふ   大阪府  池田 寿夫

何の音?という疑問に、側の人が答えたのか。山には山の音がある。私も山中の怪音を、栃の実の落ちる音と教えられた事がある。      【 正木 ゆう子 選 】


  浴場にいるのはみんな老人で私も少し老人である
                         神戸市  安川 修司

他人のことは容赦なく的確に判断できるのに、自分のことは、なかなか見えない。「少し」に込めた諧謔(かいぎゃく)が光る。             【 俵  万智 選 】


    散る紅葉古い手紙は燃やさうよ   東京都  山内 健治

本当に。 少しはモノを整理しなくては。 そうは言っても捨てられない手紙の数々。読み返すこともないのに、決心がつかない。          【 正木 ゆう子 選 】


   鮭遡上みな故郷へ傷を持ち   流山市  久我 渓霞

鮭たちは子孫を故郷の川に残すために懸命に遡上(そじょう)する。「傷を持ち」に、なんとなく人間が重なるところが切ない。             【 矢島 渚男 選 】


  病室の深夜放送きこえくる「麦と兵隊」しらべかなしき
                             松戸市  関根 賢人
 
『麦と兵隊』は火野正葦平(あしへい)が昭和13年、中国戦線に従軍して書いた小説。 歌は東海林(しょうじ)太郎が歌って広く愛誦(あいしょう)された。 当時の人には忘れ得ぬ作品である。

  高千穂より桜島かけ降りうつる草屋(くさや)の雨に身はぬれてをり
                             霧島市  久野 茂樹

上の句は、大きな状景と古代史的な印象の地名をとりこんだ表現に力があり、下の句で一転して、こまやかな情緒が生きる。


  貧乏は恥づかしくない母は言ひ長くわづらひ父を看とれり
                             横浜市  小池 四郎 

  余所者の口出しせぬが無難なりつどひさびしき転入者われ
                             山口市  岡田 貞義

  いささかの遺産めぐりていさかへりもの言わぬ義母曲がりし背中
                             久留米市  塩山 雅之

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いずれも、今回の【 岡野 弘彦 選 】の作品です(10作品中5作品)。
「五七五七七」のリズムにこだわらない作品が目に付くのですが、如何でしょうか?


   地芝居の弁天小僧どこのだれ   栃木県  あらゐ ひとし

どこの地芝居か。「白波五人男」を上演するとは かなりのもの。その弁天小僧の演技が素人離れしていて、「どこのだれがやっているんだ」と観客たちが噂している。
                                     【 矢島 渚男 選 】


   廃校に運動会の木霊棲み   東京都  望月 清彦

廃校で運動会の音楽の幻聴を聞いたということかもしれない。季語として運動会は弱いが、学校の最も学校らしい行事が運動会であったことを強く示す。小学校か。
                                     
【 小澤  實 選 】



   毎年よ文化の日てふ野良日和   東京都  松本 武雄

文化の日の催しに来たけれど、何と勿体(もったい)ない良い天気。こんな日に畑に出れば、うんと仕事が捗(はかど)るだろうに。体が二つあればよかった。
                                   【 正木 ゆう子 選 】


   大秋刀魚焼けば表のありにけり   北本市  萩原 行博

焼き魚は皿の上で頭を左に置くので、自(おの)ずと左側の半身が表になる。しかし平目や鰈(かれい)は別として、泳いでいる魚には表も裏もないのである。
                                    【 正木 ゆう子 選 】


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