目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   梟の片目は義眼かもしれず     秋田市  中村 栄一

梟(ふくろう)は夜行性の猛禽。闇の中でたたずむ写真を見るたびに、どこを見ているのかわからないその目が不思議に思われてならない。
                             【 宇多 喜代子 選 】


   除夜の鐘突き損なひのなかりけり   さいたま市  清水 保巳

この作者はどうしてこんなことを詠もうと思いつくのだろう、と訝(いぶか)しむのも俳句の楽しさの一つ。そもそも厳かな除夜の鐘の「突き損ない」という発想に可笑(おか)しみがある。               【 正木ゆう子 選 】


  白亜紀の化石をそんなに動かすな一億年後の学者のために
                          福井市  佐々木博之

恐竜の化石など大人気。 発掘といえば聞こえはいいが化石燃料と同じく、掘り尽くしてしまうことは必定。それでいいのか。    【 小池  光 選 】



    枯蟷螂菩薩の貌をもてにけり   太田市  浜田 武哲   

枯蟷螂(かれとうろう)は枯草色となったかまきり。交尾を終え雄を食べてしまった雌ばかりという。菩薩の貌(かお)が不思議。鬼の貌が普通の発想だろう。生き抜いてきたという実感を味わう。         【 小澤  實 選 】


    12月8日無人の遊具群    前橋市  豊嶋 秋生

小公園の遊具の群れの中に座って、今日は太平洋戦争の開戦日であることを思う。遊具の間に戦死者の気配を感じている。鎮魂の一句。  
                               【 小澤  實 選 】



 独り居の茶の間の窓に雨の夜は蛞蝓(なめくじ)は来て老いをのぞけり
                            東京都  五十代ひさ

ナメクジが部屋を覗(のぞ)くという発想がおもしろい。親しき友を案ずる感じ。元気の様子に安心してぬるぬる這(は)って言った。 【 小池  光 選 】


   爆裂のごとき頭髪卒業歌   さいたま市  藤井  恵

爆裂型の髪の毛は、見るからにつっぱた高校生を思わせる。そんな生徒でありながらも、みんなと一緒に卒業の歌を歌っているという光景はどこか微笑(ほほえ)ましくもある。選者となって最初に選んだもので、私自身にも思い出深い句になった。作者は欠詠もなく、個性的な作品で何度か入選を果たしている。成長が楽しみな作者である。         【 矢島 渚男 選 】

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   そこに山そこに河あり敗戦忌   札幌市  小山 耕昭

昭和20年8月15日を身をもって体験した人が、一人また一人といなくなる。かの日、一面の焦土に立った多くの人が、この国の山河がふたたび蘇(よみがえ)ることがあるかしらと思った。ただ山がある、河があるという平凡な風景がどれほど幸いなことか。そんな感慨を感情を交えることなく表現した句である。                        【宇多 喜代子選】

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   台風にこと寄せて聞く子の暮し   茅ヶ崎市  清水 呑舟
 
「こと寄せる」は「かこつける、言い訳にする」。優しくゆかしい言葉である。様子を聞きたいと思いつつも、頻繁に電話するには遠慮のある子供の家へ、台風にかこつけて電話をかける親心。男親であれば、さらに妻経由でそれを聞くのかもしれない。内容も表現も、使われている言葉も穏やかで、一読、胸が温かくなる。                     【 正木ゆう子 選 】

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   畦焼きの火と金星とひかりあふ   津 市   中山いつき

畦(あぜ)を焼いている内に、日は暮れてしまった。闇の中で畦は燃えつづけている。空のかなたに宵の明星が輝いているのに気付いた。天と地との呼応が美しい。地上の火と金星とで、大きな虚の空間を捉(とら)えている。金星の光に励まされている感じもある。夜の風景を詠んだ句は、数少ない。労働を詠んだ句も貴重である。                【 小澤  實 選
 



   少女らに成年われにローザの忌      安東 次男(つぐお)

ローザ・ルクセンブルク! ある世代以上の人には懐しい名前ではなかろうか。第一次世界大戦後のドイツの革命家。’19年1月15日、反革命派によって惨殺された。音楽の一小節のような響きの名前とは裏腹に闘争の生涯だった。                    【 四季 ・ 長谷川 櫂 】


 絶交に似合ふ切手のなき寒暮   さいたま市  藤井  恵

絶交状を書き、それにふさわしい切手を貼ってやろうと思うのだが、見つからない寒い夕暮れ。さて、どんな切手が似合うのだろう。 【 矢島 渚男 選 】


     家建てな旅せな十年日記買ふ   大分市  二階堂紅雲

あれもこれもしなくてはと思うばかりで一年は過ぎてゆく。さてこれからの10年。家を建てること、旅に出ること。忙しくなりそうだ。【 宇多 喜代子 選 】



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