目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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    革命は地下水道に遠き春   浅井 慎平

たとえばパリ。 道路に沿って建物の並ぶ地上が都市の陽画であるなら、蜘蛛の巣のように地下水道の入り組む地下は陰画。本来は生活のための設備だが、革命運動やレジスタンスの秘密の道になった。この句「地下水道に」で切って読む。                  【 四季 ・ 長谷川 櫂 】


   うすらひを踏んでゆくひと跨ぐひと   松山市  久保  栞

路上のみずたまりにうすうすと張った氷を、ぱりぱり踏んでいく人も、跨(また)いでいく人もいる。人それぞれ。 「うすらひ」は早春の季語。
                                【 小澤  實 選 】


 水槽に30分生きしリュウグウノツカイは何を言ひたかりしか
                           三原市  天崎 千寿

前兆10メートルにもなる神秘的な深海魚。水族館に飼われてまもなく死んでしまった出来事が最近あった。本当に何を言いたかったのか、作者とともにみんな考える。                        【 小池  光 選 】


 死にし子よりの電話でしたと老女はいう形振りかまわぬ振り込め詐欺
                           所沢市  鈴木 照興

早く子を亡くして身よりのない老女のもとへ、「あなたの息子です」と掛かってくる詐欺電話。むごい世の中だと思う。戦争は無くなっても、幸福ではない社会。                        【 岡野 弘彦 選 】


    孤独とは気づくことなり夜の霧     居木あゆみ

人は誰でも孤独である。しかし、自分が孤独であることになかなか気がつかない。作者は20年生きて初めて自分の孤独な姿が見えたのだろう。
それは決して悲しむべきことではなく、思索も創作もすべてここから始まる。
作者は東海大生。                                      【 四季 ・ 長谷川 櫂 】


  合格者掲示されれば歓声のなかにうつむきて帰る子の見ゆ
                          足利市  熊田 敏夫

私どもが受験したころは合格掲示を確かめて、ひっそりと帰った。多くの落ちた人々が落胆していろ眼前で、露骨な喜びを示すようになったのはいつ頃からだろう。                         【 岡野 弘彦 選 】



   七草に二つ足らねど春の香を満たしとんとん刻んでおりぬ
                          神栖市  成毛 花子

パック入りではなくみずから摘んできた七草。二種類足りないが、だからこそ値打ちがあるとも言える。粥(かゆ)を作ろうと刻んでゆくと香が立ちのぼり、気分はもう春一色。                  【 栗木 京子 選 】


   存在と時間とジンと晩夏光   角川 春樹

私は6年前、刑務所の独房にいた。それは正に忍耐の2年5ケ月と3日間だった。その間、私は過去に生きていると考え続けていた。耐え難い月日を、鉄格子の中の現実を未来から確認すれば、全ては過去の出来事に過ぎない。哲学者のハイデガーは名著『存在と時間』の中で、過去も未来も現在から派生するものと捉えている。しかし私の獄中体験に照らすと、時間は過去・現在・未来へと流れてゆくのではなく、未来・現在・過去へと流れてゆく時間軸の中に人間は存在していると考えざるを得ない。思想のない一行詩が存在しないと同様に、詩人は自己の存在を中心とした時間意識を持たなければならない。


   15のままの君に初めて賀状書く   横浜市  大井  実

15歳は中学3年生か。そのころ好きだった人へはじめて年賀状を書いた。おずおずと躊躇(ためら)いながら。その面影も恋心も昔のまま。「15のままの君」がとても素直な表現で字余りも許されよう。   【 矢島 渚男 選 】


   左手と思しき母の賀状かな   東京都  榎  正好

母の利き手は右手。この母の字はいつもの字とはちがう。そのことを直感する。遠隔に住んでいる母へのおもいが一句にあふれている。
                             【 宇多 喜代子 選 】


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