目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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  " 心 " と書きていずれの画も交わらぬしずかなりけりあるべきこころ
                       道淵 悦子 ( みちぶち えつこ )

心という漢字、四つの画が互いに交わることもなければ、触れ合うことさえない。それぞれの画が静かな「間」を置いて佇んでいる。 石庭の砂の上に置かれた四つの石のように。 もともとは心臓を表す。 歌集『空のようなもの』から。
                      【 '18.06.19 四季 ・ 長谷川 櫂 選 】


   何かあると思ひてみれば夏の月   東京都  望月 清彦

あれ、何だろう、何かある。 遠近感が掴(つか)めなくて、月が他の物体のように思われたのだ。 ああ、月か、と気づいた時の気分はどうだったろう。 つまりこの句がその気分なのだ。                            【 正木 ゆう子 選 】


   滝壺で顔を洗つて出直すか   東京都  天地 わたる

「顔を洗って出直してこい」とはよく聞く言葉だが、さて何処で(どこ)洗うか。そこに滝壺が出てくるとは。最上級の覚醒が得られそう。       【 正木 ゆう子 選 】


   泣き声の治まる5月保育園   横浜市  青木 幸子

4月、新入りの幼児がママから離れるのが嫌で泣く。そんな声がどうやらおさまるのが5月。                             【 宇多 喜代子 選 】


   大笑ひくすくす笑ひチュ―リッップ   青森市  小山内 豊彦

春の日差しの中、チューリップが咲き並んでいる。その花がそれぞれに笑っている。西村和子に <パンジーのくすくす笑ひ止まらずよ>があるが、似ていて非だろう。
                                  【 宇多 喜代子 選 】


   形見にと貰いし切手張り合わせ今日もせっせと投稿をする
                            大阪市  石川 由美

形見の切手、というのが趣深い。故人は手紙を書くのが好きな人だったのだろう。石川さんの投稿葉書には15円や5円の美しい切手が貼られ、目を楽しませてもらった。                                 【 栗木 京子 選 】 


  背中から黙って私を抱きしめて深呼吸して好きと言ったね
                              岩手県  奥友 悦子

めずらしく、 高校生のストレートな表現の歌が投稿されてきた。 素直で、 一気に歌い切ってあるのがいい。                     【 岡野 弘彦 選 】



  満月に舟で嫁ぎてきし妻よ75年共にして逝く
                         香取市  関  沼男

原作は「満月に舟で嫁ぎてきし妻の75年共にし逝きぬ」。このままでもわかるが、ほんの小さな違いで、事柄だけでなく思いのこまやかさが伝わる点に注意して。
                                    【 岡野 弘彦 選 】


   転寝(まろびね)の瞼を徹(と)ふす若葉かな   五明 ( ごめい )

瞼(まぶた)を閉じても新緑の光が感じられる。五明らしい感覚の冴(さ)えの利いた一句である。 俳句にとって五感の冴えは大事である。 しかし もっと大事なのは直感の冴えだろう。 五明は江戸中期、秋田の商人、蕪村の同時代人。『五明句藻』から。              【 '18.06.15 四季 ・ 長谷川 櫂 選 】


   巣を出よと何度も諭す親鴉   羽生市  五月女 文子

黒いカラスは嫌われ者だが、鳥類の中では頭が良く、愛情の深い鳥だ。その鴉が言い含めるように巣立ちを促しているという。人間の親は子を諭さなくなったのに。
                                    【 矢島 渚男 選 】


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