目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   もう帰らざるものの如秋入り日   東京都  森 彰一郎

そして朝、太陽はこの世で初めての夜明けのように昇ってくる。永劫(えいごう)それを繰り返しながら、完璧に新鮮であり続ける一日一日。
                             【 宇多 喜代子 選 】


   運動会 まつすぐ走れ 一年生   東京都  井出 ミヨ
    
春に一年生になったばかり。はじめての運動会である。早く走ることもむつかしいが、まっすぐに走るということもむつかしいのだ。声援の様子の伝わる句だ。                            【 宇多 喜代子 選 】


   鱗雲ずんずんラヴェルのボレロかな   大阪市  吉沢 千代子

ずんずんずんと単調なリズムの連続が次第に高揚していく「ラヴェルのボレロ」。これを知る人であれば、そのリズムが天いっぱいに広がってゆく鱗雲(うろこぐも)の様子に重なることに合点がゆくはず。ラヴェルはフランスの作曲家
                              【 宇多 喜代子 選 】



   探しものこんどは月に掛けておこ   南魚沼市  田中 美智子
 
三日月の先なら物を掛けるのにちょうどよい、とはいえ、この極端な大きさから察するに、失せるものはなかなか減りそうもない。   【 正木 ゆう子 選 】



   雪解の呂川律川響きあふ    尼崎市  北畠 こうじ

京都市左京区大原の三千院の東、音無ノ滝に発する川は声明(しょうみょう)に従って南側を呂川、北を律川、あわせて呂律川と称す。三千院は声明で有名だが、滝音で声明が乱されるとして呪文(じゅもん)により良忍上人が音無しの滝としたとも伝えられる。この逸話も面白い。 【 森  澄雄 】

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   兄水漬くバシーの海よ月光に    八王子市  小楠 淳平

海ゆかば水漬(みづ)く屍(かばね)。バシーは台湾とフィリピンの間にある海峡。月光が照らすバシーの海に、兄は今も水漬く屍のままである。海の戦場へ赴く者は、水漬く覚悟をして、と万葉の大伴家持は歌った。太平洋戦争では、無数の戦士が水漬く屍となった。鎮魂の一句。 【 成田 千空 】

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   山海のいのちを貰ひ八月越す    前橋市  豊島 秋生

8月6日、9日、15日。昭和20年以来、幾度も暑くつらい思い出のある日を過ごしてきた。年をとるにつれ、暑さを乗り越えるつらさも加わってきた。このような切実な思いが通じなくなってきた今、「山海のいのちを貰ひ」に一入(ひとしお)の感慨がつのる。              【 宇多 喜代子 選 】

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   八万四千の法門の一草を引く    茨城県  沢崎 だるま

一本の草を引くことも数多くある真理への道の一つ、という内容もいいが、姿の良い句でもある。八万四千という大きい数と一との対比、法門という仏教的な言葉と、草を引くという卑近な動作との対比。それら天と地の対比が上から下へと美しく流れて収まっている。         【 正木 ゆう子 選 】



  蔵前や千住日暮里錦糸町リヤカで菓子を配達せし街
                         小田原市  渡辺 一弘
台東区蔵前、足立区千住、荒川区日暮里、墨田区錦糸町と、凡(およ)そ東京下町地区。それを羅列した上句が、単純に印象を鮮明ならしめている。製菓小工場住み込み奉公の昔、それら地区に卸し配達をした回想。「リヤカ」の語も事実だが効果的。              【 清水 房雄 】

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  父の代から馴染みの野鍛冶の打ちし鉈(なた)
         丹念に研ぎ杉の枝打つ    埼玉県  山口 富江 
「父の代」と言い、野鍛冶と言う。作者の生活の形がおおよそ偲(しの)ばれる言葉だが、さらに、今も行われる杉林手入れの描写が続く。代々引き続くこうした生活それ自体、もはや珍しい環境といってもいいかも分からない。然し、変わらず心を惑(ひ)くものだ。             【 田谷  鋭 】

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  見も知らぬ出征中の夫に嫁し姑(はは)とくらしぬ姑やさしかりき
                        茨城県  染野 光子
現代では嘘のような、戦争中の重い体験が歌われていながら、暗くなくて
内容があたたかい。四句まで一気に特殊な事情を述べた、そこで切り、
第五句で胸いっぱい叙情的に歌った形がよい。この一首が窓のように開いて、読者に連想を生み出させてゆく。          【 岡野 弘彦 選 】

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  開館のライトが点けば立ち上がりダビデの腕は石を掴みぬ
                         東京都  吉竹  純
目には見えない世界を形にすることも言葉の力のひとつだ。閉館中の彫刻を想像する視点が、ユニークな一首だった。今にも動き出しそうな像だからこそこの想像の世界が説得力を持つ。つまり、生きているような彫刻への賛辞とも読むことができる。                     【 俵 万智 選 】



   柿干して独り暮しに明日がある    京都府  時武 多恵子

剥く楽しさ、干す楽しさ、甘くなれよと眺める楽しさ。粉を吹き、日に透ける程になるのには遅速があるので 順位をつけて心待ちにする。そんなささやかな楽しみこそ幸福。                    【 正木 ゆう子 選 】


  落葉ふむ音をたのしと言ひゐしがいづこの林に落葉ふみゐん
                           日立市  斉藤 英三

秋山の落葉に、この世を去ってゆく死者を連想する、 『万葉集』の挽歌の伝統から言えば、この歌も挽歌とうけとれる。あるいは、別れた人への相聞歌かも知れぬ。微妙なゆらぎが心に残る。       【 岡野 弘彦 選 】



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