目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
暖かや埴輪の口のほうと言ふ 秋田市 中村 栄一
たしかに埴輪の口は 「ほう」 という口の形をしている。 長い時間を経て出てきて、 ホウこれがこの世かとあんぐりと口を開けている。 【 宇多 喜代子 選 】
たしかに埴輪の口は 「ほう」 という口の形をしている。 長い時間を経て出てきて、 ホウこれがこの世かとあんぐりと口を開けている。 【 宇多 喜代子 選 】
白魚に五臓六腑のありにけり 北本市 萩原 行博
白魚は小さな魚なのに、その身には五臓六腑を備えている。そして、それぞれすべてが身に透けて見えているというわけだ。不思議は、微細なものにも満ちている。
【 小澤 實 選 】
白魚は小さな魚なのに、その身には五臓六腑を備えている。そして、それぞれすべてが身に透けて見えているというわけだ。不思議は、微細なものにも満ちている。
【 小澤 實 選 】
樹の形真似る少年春きざす 前橋市 渋沢 智
「樹の形真似る少年」 は人間であるのが、嫌なのかもしれない。春きざす頃、この少年にちょっと共感。 【 小澤 實 選 】
「樹の形真似る少年」 は人間であるのが、嫌なのかもしれない。春きざす頃、この少年にちょっと共感。 【 小澤 實 選 】
街道の土産は同じ草の餅 柏市 中野 英則
この句を読めば、だれもが「そうだそうだ。わたしも買ったよ」と思い出すだろう。草の餅は全国のあらゆる土産物店にある春の目玉商品。 【 宇多 喜代子 選 】
この句を読めば、だれもが「そうだそうだ。わたしも買ったよ」と思い出すだろう。草の餅は全国のあらゆる土産物店にある春の目玉商品。 【 宇多 喜代子 選 】
みどり児の手が届きたり吊し雛 入間市 角貝 久雄
吊(つる)し雛が盛んになってきた。揺れるし、いろいろなものが吊されているし、幼児には興味津々のお雛様だから、どうしても触りたくなる。 ようやっと手が届いた。
【 矢島 渚男 選 】
吊(つる)し雛が盛んになってきた。揺れるし、いろいろなものが吊されているし、幼児には興味津々のお雛様だから、どうしても触りたくなる。 ようやっと手が届いた。
【 矢島 渚男 選 】
しんしんと内なる力照りいでて真夜もさくらの花あかりする
垂水市 岩元 秀人
この季節にはやはり、力のこもった桜の歌に心が引かれる。照明も消えた夜更けになって、桜はみずからの持つ明るさで闇の中でもほの白くかがやいて見える。
【 岡野 弘彦 選 】
垂水市 岩元 秀人
この季節にはやはり、力のこもった桜の歌に心が引かれる。照明も消えた夜更けになって、桜はみずからの持つ明るさで闇の中でもほの白くかがやいて見える。
【 岡野 弘彦 選 】
出来立てのうぐいす餅は手の中で小鳥のごとき危うさを持つ
池田市 今西 幹子
柔らかくて、あたたかくて、ちょっとした力にもつぶれてしまいそう・・・・・・。小鳥の比喩、的確さに加え、慈しむ感覚のあるところが、とてもいい。 【 俵 万智 選 】
池田市 今西 幹子
柔らかくて、あたたかくて、ちょっとした力にもつぶれてしまいそう・・・・・・。小鳥の比喩、的確さに加え、慈しむ感覚のあるところが、とてもいい。 【 俵 万智 選 】
麦飯に似凝(にこご)りのせて食む母の疎ましかりき思春期のわれ
藤枝市 北泊 あけみ
生命力のかたまりだった母。食事するのもただただ逞(たくま)しい。こういう母のふるまいを疎ましく思った思春期。今はみな過去。 【 小池 光 選 】
藤枝市 北泊 あけみ
生命力のかたまりだった母。食事するのもただただ逞(たくま)しい。こういう母のふるまいを疎ましく思った思春期。今はみな過去。 【 小池 光 選 】
出来たとは言はず息子は畏(かしこ)まり授かりましたと親の顔する
瑞穂市 渡部 芳郎
親に子供が出来たことを報告する場面。厳粛に、きっと正座してこう告げたのだろう。孫が出来ることも嬉(うれ)しいが、息子がちゃんと成長してくれたことが嬉しい。
【 小池 光 選 】
瑞穂市 渡部 芳郎
親に子供が出来たことを報告する場面。厳粛に、きっと正座してこう告げたのだろう。孫が出来ることも嬉(うれ)しいが、息子がちゃんと成長してくれたことが嬉しい。
【 小池 光 選 】
【 歌のなかの人々 2 小島 ゆかり 】
「前略」を「全略」と書き以後空白そんな手紙を送りたい春 佐藤 通雅
「前略」という言葉をはじめて使ったのは、大学時代に借りていた部屋の大家さんへのお礼状だった。卒業して、まもなく社会人になる気負いがあったにちがいない。どのような書き出しがよいのかさんざん迷ったあげく、「前略」。なんとなく大人になった気がした。あれからまもなく40年になる。お礼にお詫(わ)びに近況報告に、どれほどの「前略」を記したことか。
しかし「全略」とは・・・・・・。 いいなあ、これ。 メール時代の現代の若者にだって、「○○様 全略 △△より」 と送信、返信したいときがきっとあるだろう。悲しいとき面倒なとき、あるいはうれしくて言葉にならないとき。この歌の作者はどうだろう。もしかしたら、「空白」 をだれかと分かち合いたかったのかもしれない。春はふと、そんな気分になる。 【 15.04.14 読売新聞 「 短歌あれこれ 」 】
「前略」を「全略」と書き以後空白そんな手紙を送りたい春 佐藤 通雅
「前略」という言葉をはじめて使ったのは、大学時代に借りていた部屋の大家さんへのお礼状だった。卒業して、まもなく社会人になる気負いがあったにちがいない。どのような書き出しがよいのかさんざん迷ったあげく、「前略」。なんとなく大人になった気がした。あれからまもなく40年になる。お礼にお詫(わ)びに近況報告に、どれほどの「前略」を記したことか。
しかし「全略」とは・・・・・・。 いいなあ、これ。 メール時代の現代の若者にだって、「○○様 全略 △△より」 と送信、返信したいときがきっとあるだろう。悲しいとき面倒なとき、あるいはうれしくて言葉にならないとき。この歌の作者はどうだろう。もしかしたら、「空白」 をだれかと分かち合いたかったのかもしれない。春はふと、そんな気分になる。 【 15.04.14 読売新聞 「 短歌あれこれ 」 】