目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   いくさよあるな髪鷲摑みして洗ふ   藤井 浅夫

「髪」で軽く切れる。戦よ、あるな、の鬱屈(うっくつ)した思いで髪の毛を鷲摑(わしづか)みにして洗うというのである。中七の把握に思いが表されている。
                                    【 矢島 渚男 選 】


  蛍となりて帰ると言ひし若き兵いまも知覧の夜をさすらふ
                        東京都  松井 和治

知覧でよく知られている伝えで、あたたかく世話してくれた小母(おば)さんに、「きっと蛍になって帰ってくるよ」と言って発(た)っていった、特攻隊員を語り伝える身にしむ話。                                【 岡野 弘彦 選 】


  三日かけて「玉音放送」諳んじぬ獄にむかふる終戦記念日
                          仙台市  長岡 義宏

獄中で新聞に再録された昭和天皇の玉音放送を、くり返し書き写し音読して、暗記してしまった。作者の思いが察しられる。          【 岡野 弘彦 選 】


   ヘイタイは嫌(いや)がエゴかよ秋刀魚焼く   川崎市  堀尾 一夫

「兵隊になりたくないというのが利己主義だというのかよ」と呟(つぶや)きながらサンマを焼いている男。 これは多くの人々の率直な気持ちであろう。人々の心情に基づかない進路は国を誤るのではないだろうか。           【 矢島 渚男 選 】


   母のゐる北より流れ鰯雲   枚方市  船橋 充子

頭上いっぱいに鰯(いわし)雲が広がる。見上げた首を北の方に向ける。母が住んでいる方だ。母は元気にしているだろうか。見えないところにそんな思いを秘めた句だ。                                  【 宇多 喜代子 選 】


  牛丼を待つ青年はスマホ見る食べながら見る見ながら帰る
                           仙台市  岩間 啓二  

上の句だけなら、驚かない。が、下の句こそが今の若者の日常なのである。「見る」という動詞をリズミカルに重ね、結句でたたみかけるところがみごと。スマホべったりの感じが、よく出ている。                        【 俵  万智 選 】


  背を反らせてラジオ体操第一の刹那に見ゆる昼月の白
                     市原市  井原 茂明

いつもとは少し違う角度で見えた月が新鮮だ。「白」の体言止めが、ぽっかり浮かぶ昼月の印象を、余韻を持って残してくれる。            【 俵  万智 選 】


  亡き君のケータイはまだ折り折りに着信音と光を放つ
                        足利市  坂庭 悦子

亡くなったことを知らずに、まだかけてくる人がいる。反応する携帯はむなしいが、結句の光は君の魂のようでもある。                  【 俵  万智 選 】


   雨の中すこし動いたかたつむり
            東京都 江東区立東砂小学校5年  石川 水基

雨の中、少しだけ動いて、またカラにこもったカタツムリ。 雨の日の静(しず)まり返(かえ)った時間が切り取られていますね。 読む人の心を、しんとさせる句です。              
                【 ’15.09.19 KODOMO俳句 高柳 克弘 選 】


   蚯蚓鳴く戦はしてはなりませぬ   水戸市  大野 太加し

「蚯蚓(みみず)鳴く」は静けさを表す秋の季語。鳴くことのない蚯蚓の声なき声が、戦をすることを諫(いさ)めているようだ。 大声でわめくより、腹の底に重く響きはしないか。                             【 宇多 喜代子 選 】


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