目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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  蛍となりて帰ると言ひし若き兵いまも知覧の夜をさすらふ
                          東京都  松井 和治

昨年は戦後70年、戦争を思う歌が多く投稿されてきた。 私自身も、特攻隊で戦死した同級生を歌に詠み、鹿児島へ二度旅して特攻基地を訪れた。この歌は、知覧で特攻兵達(たち)を世話して「おかあさん」と慕われた鳥浜トメさんと、特攻で散った宮川三郎少尉との逸話を歌った、切ない思いの一句。  
                                    【 岡野 弘彦 選 】

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   お父さん私ら永く生きたわね、さういふ妻の頭撫でたる
                          城陽市  相原 洋次

 老夫婦の会話。ふと妻が重いことばをつぶやく。返すことばが見当たらなかった。思わず黙ってそういう妻の頭を撫(な)でた、という歌。まるで映画の一場面のようで、妻のセリフも単純なようで味があるし、それに対応する夫のしぐさにも万感の重いがこもっている。こういうときことばは必要ない。            【 小池  光 選 】

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  除染後の裸の土に芽生えたるハナダイコンを鉢に上げやる
                          郡山市  星 キク子

原発事故による東北の方々の苦しみは続いている。除染される土もさぞかし悔しくつらいことであろう。「裸の土」という表現に胸を衝(つ)かれる。だが、除染後の土はたくましくハナダイコンを芽生えさせた。芽を鉢に移し変えるしぐさに愛情がこもっており、いのちの健気さを伝えてくる歌である。             【 栗木 京子 選 】
    
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  「かがやき」に東京・金沢結ばれて春の日本のウエスト縮む
                          池田市  今西 幹子

北陸新幹線が金沢までつながった明るいニュース。かがやきという固有名詞が効いている。薄着になったイメージも加わって、春のウエストの比喩が素晴らしい。このようにユニークで新鮮な比喩が、今西さんの持ち味の一つだ。桔梗(ききょう)の蕾が「キリトリ線」に沿うように開くという一首も忘れがたい。      【 俵  万智 選 】 



   新聞に包まれ焼芋らしくなる   銚子市  久保 正司  

いまはスーパーなどでも焼芋を売っている。永遠のヒット商品だが、どうも新聞紙に包まれないと気分が出ないし、焼芋らしくない。         【 矢島 渚男 選 】


  認知症となりて久しき妹が古きわが短歌(うた)を諳(そらん)じており 
                               東京都  三井  操

認知症の病状には人によって微妙な差があるようだ。この場合は、若い日に心に刻んだ姉の歌を、ほかの事は忘れてもいつまでも忘れず口ずさんでくれる妹なのだろう。                                 【 岡野 弘彦 選 】


   冬めくや土偶の足の短くて   岡山市  橋本 幹夫

土偶は、胸や腹が詠まれることが多いが、足の短さも重要。 縄文人は冬の間、春という季節の復活を祈って過ごしたことだろう。           【 小澤  實 選 】


   木登りをしてまで柿は採らぬらし   東京都  家泉 勝彦

木に取り残された柿を見て、昔は木登りをしてでも採ったものだったが、今は、という感想か。それに柿の木は折れやすく危険でもある。       【 矢島 渚男 選 】


   築百年最上級の隙間風   東海市  斉藤 浩美

すうすうと、この上なく冷たい隙間風も、最低と言わず、最上級と誉めて我慢すれば気にならないかもしれない。何事にも応用できるユーモラスな心理作戦である。 
                                    【 正木 ゆう子 選 】


  介護より解かれじんわり世の中は広くなりけり虚脱ののちに
                         藤沢市  清島 俊雄

介護の日々が終わってすぐに開放感を味わったのでなく、まず虚脱感に襲われたのだ。 「じんわり」に実感がこもっている。               【 栗木 京子 選 】


  本当は上手に描ける人なのに下手さが辛い絵手紙が来る
                           青梅市  諸井 末男

親しみやすさ、手作り感、そういったものを過剰に演出された時の、鼻につく感じ。それを実に婉曲に上手に言っている。               【 俵  万智 選 】


   行く秋やちゃん付けに夫偲ぶ友   鎌倉市  中江 優子

夫婦はたいていの場合、相手の子供時代を知らない。夫の幼馴染(おさななじみ)がしてくれる昔話は、妻の知らなかった夫の一面を見せてくれる。 
                                    【 正木 ゆう子 選 】


   柿落葉やがて大地の色となる   横浜市  竹村 清繁

高揚の葉のなかでも柿は彩色が見事。 その表裏に初冬の日を受けながら地に落ち、やがて朽ち、土になってゆく。 その過程を端的にとらえ、美学とも諦観ともいいがたいおもいをさりげなくとらえている。              【 宇多 喜代子 選 】


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