目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   台風の眼の中あさぎまだらかな  川崎市  多田  敬

蝶(ちょう)の渡りは、台風の時期と重なるので、こんな場面もあるだろう。 台風があり、中に眼(め)があり、その中に蝶がいるという、入れ子的俯瞰(ふかん)図。 
                                   【 正木 ゆう子 選 】


   鶏頭に話しかけたる無口かな   流山市  久我 渓霞

鶏頭という植物の花はどこか花離れしていて人間くさい。脳を連想する人も多いし話しかけたくもなる。平素、無口でとおる人付き合いの好きでない作者が話しかけた。                                   【 矢島 渚男 選 】


【 岡野 弘彦 選 】
 
   胸せまる兄の臨終に立ちあへり夜ふけ音なく雨降りしきる

                            羽曳野市  赤沢  皆

原作は「心急く兄の臨終立ち合いて夜更け音なく降りしきる雨」。思いのほどは大体、歌い得ているが、生涯の中でも大切な兄との別れだ。いま一息、深い推敲(すいこう)を。

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   金木犀の香りただよふ風の日をひと日憂ひて夕べいたりぬ
                            八千代市  一戸 光代

原作は「好む人好まぬ人あり甘き香の金木犀を風の日憂ふ」。短歌は理屈や説明を先だてて歌うと、歌がらが小さくなります。  


   牛を見る先を吾も見る鹿二頭   福島県  黒沢 正行

牛の目に緊張が感じられたのだろう。視線の先を見ると、鹿もこちらを見ている。何事か起こるわけではないが、静かな緊張がしばし漂う。     【 正木 ゆう子 選 】


   晩秋の海鳴り母を一人置き   枚方市  船橋 允子

一人残す母の家に海鳴りが響くのか。省略がきいているため、母と共に住んで世話できないすべての人の心に届く句である。親を一人にする切なさは、いつまでも後を引く。                             【 正木 ゆう子 選 】


   水澄みてなほも見えざる瀞の底   東京都  望月 清彦

瀞(とろ)とは、河水の深くて、流れの静かなところ。秋が深まって水が澄んできても底が見えないとは、おそろしく深いのだ。澄んだ水の重なりに、神秘的なうつくしさがある。                                 【 小澤  實 選 】


  ちちははは手足の先になほ生きて玄関の靴そろえさせゐる
                             つくば市  潮田  清

幼い頃しつけられたことは、高齢になっても無意識にしている。亡くなっても、なお見守られている感じが伝わってくる。                  【 俵  万智 選 】


免許証返納をしてうだうだの訛りなつかし一輌電車  
                            成田市  神郡 一成

1輌編成・・・つまり車社会なのだろう。返納は大変だが、こんな情緒をもたらした。「うだうだの」にこもる「変わってねえな」というニュアンスがいい。  【 俵  万智 選 】


   濡れてゐる露草犬の鼻の先   川崎市  沼田 広美

歩いている犬の鼻の先に、朝露に濡(ぬ)れて咲いている露草がある。一瞬の景を描ききった。一瞬の出会いであるからこそ、うつくしい。      【 小澤  實 選 】


   日は水に水は日に映え鷹渡る   津 市  中山 道春

はるか南海へと渡って行く鷹の目に映っている風景を、上五と中七で描く。大洋が広がり、その上に太陽が差すばかりの世界である。渡ってゆく鷹への愛を感じる一句。                                  【 小澤  實 選 】


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