目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
おはようと浅漬に柚子搾りけり 宇部市 田中 勝子
家族に「おはよう」でもいいし、あるいは自分に、朝そのものに言ったのでもいい。「おはよう」という言葉の明るさが、心に飛び込んでくる。
【 正木 ゆう子 選 】
家族に「おはよう」でもいいし、あるいは自分に、朝そのものに言ったのでもいい。「おはよう」という言葉の明るさが、心に飛び込んでくる。
【 正木 ゆう子 選 】
七人の敵みな老いて桜鍋 山形市 渡辺 輝雄
「男子 家を出れば七人の敵あり」というが、自分も老い、また敵も老いた。敵を思い、桜鍋を囲む。 【 小澤 實 選 】
「男子 家を出れば七人の敵あり」というが、自分も老い、また敵も老いた。敵を思い、桜鍋を囲む。 【 小澤 實 選 】
こんなにも長き余生を日向ぼこ 八王子市 木村 雅一
思ってもみなかった「こんなにも」というほどの作者の余生。日向ぼこをしながらの感慨であれば、なおさらのこと。いつからを余生というかは個々さまざま。
【 宇多 喜代子 選 】
思ってもみなかった「こんなにも」というほどの作者の余生。日向ぼこをしながらの感慨であれば、なおさらのこと。いつからを余生というかは個々さまざま。
【 宇多 喜代子 選 】
花野ゆく仏があれば手を合はし 白石市 跡部 祐三郎
花野を歩いて行く。石仏が置かれていれば、そこで立ち止まり、祈りをささげる。この世でありながら、かの世であるかのような、不思議な空気が流れているのである。 【 小澤 實 選 】
花野を歩いて行く。石仏が置かれていれば、そこで立ち止まり、祈りをささげる。この世でありながら、かの世であるかのような、不思議な空気が流れているのである。 【 小澤 實 選 】
討ち入りの日なりなすべきことひとつ 原 霞(かすみ)
今日は討ち入りに日。そこで一人何やら意を決しているところ。赤穂の義士たちにとって、それは主君の仇(あだ)討ちだったが、作者にとっては、もちろんそんな物騒なことではない。もっとおだやかな、たとえば句会にゆくことだったりする。 【 四季 ・ 長谷川 櫂 】
今日は討ち入りに日。そこで一人何やら意を決しているところ。赤穂の義士たちにとって、それは主君の仇(あだ)討ちだったが、作者にとっては、もちろんそんな物騒なことではない。もっとおだやかな、たとえば句会にゆくことだったりする。 【 四季 ・ 長谷川 櫂 】
兵なれば婚約解かむと申されき昭和16年12月8日
秦野市 深石 ヒロ
歴史の重さを一身に受けた女性の歌。対米英開戦の日、婚約者の男性から明日をも知れぬ軍人の身だから、一切は無かったことにと言われたのだ。 暗涙を飲む思いがする。 【 岡野 弘彦 選 】
◆この歌に詠まれた日付はきのうと同じ12月8日。そう、67年前、1941年のその日は対米英開戦の当日だ。この人はその日に婚約者の男性から「明日をも知れぬ軍人の身だから、一切はなかったことに」と言われた◆「歴史の重さを一身に受けた女性の歌。暗涙を飲む思いがする」と選者の岡野弘彦さんは評した。この一首が、ひとっ飛びに、はるか遠くなった時代へ連れ戻してくれた◆一人の女性の三十一文字 の力とリズムがその時代の空気を偲(しの)ばせる。深石さんはどんな思いでその言葉を受けたか。男性の胸のうちも思う◆もうそんな時代はごめんだ。と思いつつ、12月8日が何の日か、ただちに反応できる人が少なくなったことも思う。8月15日を知る人は多いが、12月8日がその日への始まりだったことを忘れたくない◆同時に、相手を思いやる心の深かった時代をも「婚約解かむ」に思う。
<2008年12月9日14時09分 読売新聞・夕刊>
秦野市 深石 ヒロ
歴史の重さを一身に受けた女性の歌。対米英開戦の日、婚約者の男性から明日をも知れぬ軍人の身だから、一切は無かったことにと言われたのだ。 暗涙を飲む思いがする。 【 岡野 弘彦 選 】
◆この歌に詠まれた日付はきのうと同じ12月8日。そう、67年前、1941年のその日は対米英開戦の当日だ。この人はその日に婚約者の男性から「明日をも知れぬ軍人の身だから、一切はなかったことに」と言われた◆「歴史の重さを一身に受けた女性の歌。暗涙を飲む思いがする」と選者の岡野弘彦さんは評した。この一首が、ひとっ飛びに、はるか遠くなった時代へ連れ戻してくれた◆一人の女性の三十一文字
<2008年12月9日14時09分 読売新聞・夕刊>
女であることに溺れて歌を書く女ばかりの中なる 男
岡井 隆
女に溺れるといえば男の話。ところが、女であることに溺れるというと、女の話になる。短歌は心地よく溺れさせてくれる詩の器なのだろう。作者は戦後の短歌をひっぱてきた一人。ふと周辺を見回すと、いつの間にかこのありさま。
【 四季 ・ 長谷川 櫂 】
岡井 隆
女に溺れるといえば男の話。ところが、女であることに溺れるというと、女の話になる。短歌は心地よく溺れさせてくれる詩の器なのだろう。作者は戦後の短歌をひっぱてきた一人。ふと周辺を見回すと、いつの間にかこのありさま。
【 四季 ・ 長谷川 櫂 】
日も風も干大根にゆきわたる 南砂市 安居 雅寿
干大根に大事なのは適度な日と適度な風。過度になればくにゃくにゃになる。日も風もあるのが当たり前なのだが、これがほどよくゆくわたることの喜びがほとばしる句。 【 宇多 喜代子 選 】
干大根に大事なのは適度な日と適度な風。過度になればくにゃくにゃになる。日も風もあるのが当たり前なのだが、これがほどよくゆくわたることの喜びがほとばしる句。 【 宇多 喜代子 選 】
凍蝶(いてちょう)も焚(た)いてしまつたかも知れぬ 仙田 洋子
落ち葉を焚きながら思ったのだ。 その中に凍(こご)えた蝶がまぎれていたかもしれない。翅(はね)をたたみ、もはや飛ぶこともない。かといって命がないわけではない。魂だけが飛びたってゆくのをじっと待っている、ひとひらの落ち葉のような冬の蝶。 【 四季 ・ 長谷川 櫂 】
【正木 ゆう子選】
なによりの老いのゑがおや村祭 日進市 松尾和男
なによりの老いのゑがおや村祭 日進市 松尾和男