目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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  おはようと浅漬に柚子搾りけり     宇部市  田中 勝子

家族に「おはよう」でもいいし、あるいは自分に、朝そのものに言ったのでもいい。「おはよう」という言葉の明るさが、心に飛び込んでくる。
                              【 正木 ゆう子 選 】


   七人の敵みな老いて桜鍋    山形市  渡辺 輝雄

「男子 家を出れば七人の敵あり」というが、自分も老い、また敵も老いた。敵を思い、桜鍋を囲む。                 【 小澤  實 選 】


  こんなにも長き余生を日向ぼこ   八王子市  木村 雅一

思ってもみなかった「こんなにも」というほどの作者の余生。日向ぼこをしながらの感慨であれば、なおさらのこと。いつからを余生というかは個々さまざま。  
                              【 宇多 喜代子 選 】



   花野ゆく仏があれば手を合はし   白石市  跡部 祐三郎

花野を歩いて行く。石仏が置かれていれば、そこで立ち止まり、祈りをささげる。この世でありながら、かの世であるかのような、不思議な空気が流れているのである。                       【 小澤  實 選 】


   討ち入りの日なりなすべきことひとつ   原 霞(かすみ)
 
今日は討ち入りに日。そこで一人何やら意を決しているところ。赤穂の義士たちにとって、それは主君の仇(あだ)討ちだったが、作者にとっては、もちろんそんな物騒なことではない。もっとおだやかな、たとえば句会にゆくことだったりする。                         【 四季 ・ 長谷川 櫂 】


  兵なれば婚約解かむと申されき昭和16年12月8日   
                          秦野市  深石 ヒロ

歴史の重さを一身に受けた女性の歌。対米英開戦の日、婚約者の男性から明日をも知れぬ軍人の身だから、一切は無かったことにと言われたのだ。 暗涙を飲む思いがする。                 【 岡野 弘彦 選 】

◆この歌に詠まれた日付はきのうと同じ12月8日。そう、67年前、1941年のその日は対米英開戦の当日だ。この人はその日に婚約者の男性から「明日をも知れぬ軍人の身だから、一切はなかったことに」と言われた◆「歴史の重さを一身に受けた女性の歌。暗涙を飲む思いがする」と選者の岡野弘彦さんは評した。この一首が、ひとっ飛びに、はるか遠くなった時代へ連れ戻してくれた◆一人の女性の三十一文字()の力とリズムがその時代の空気を偲(しの)ばせる。深石さんはどんな思いでその言葉を受けたか。男性の胸のうちも思う◆もうそんな時代はごめんだ。と思いつつ、12月8日が何の日か、ただちに反応できる人が少なくなったことも思う。8月15日を知る人は多いが、12月8日がその日への始まりだったことを忘れたくない◆同時に、相手を思いやる心の深かった時代をも「婚約解かむ」に思う。      
             <2008年12月9日14時09分  読売新聞・夕刊>




   女であることに溺れて歌を書く女ばかりの中なる 男   
                                                                     岡井  隆

女に溺れるといえば男の話。ところが、女であることに溺れるというと、女の話になる。短歌は心地よく溺れさせてくれる詩の器なのだろう。作者は戦後の短歌をひっぱてきた一人。ふと周辺を見回すと、いつの間にかこのありさま。  
                               【 四季 ・ 長谷川 櫂 】


   日も風も干大根にゆきわたる   南砂市  安居 雅寿

干大根に大事なのは適度な日と適度な風。過度になればくにゃくにゃになる。日も風もあるのが当たり前なのだが、これがほどよくゆくわたることの喜びがほとばしる句。                    【 宇多 喜代子 選 】



 凍蝶(いてちょう)も焚(た)いてしまつたかも知れぬ   仙田 洋子

落ち葉を焚きながら思ったのだ。 その中に凍(こご)えた蝶がまぎれていたかもしれない。翅(はね)をたたみ、もはや飛ぶこともない。かといって命がないわけではない。魂だけが飛びたってゆくのをじっと待っている、ひとひらの落ち葉のような冬の蝶。                 【 四季 ・ 長谷川 櫂 】



 【正木 ゆう子選】
     なによりの老いのゑがおや村祭   日進市  松尾和男 


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