目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   島桜さき盛りゐる岬の沖しづむ大和を知る人もなし   
                           東京都 緒方  輝
   
戦艦大和は日本人が夢を託した幻の巨艦であった。敗勢歴然たる時、沖縄の守りに向かう途中、米軍機千機の攻撃を受けて徳之島沖に沈没。一首は大和への沈痛な挽歌。               【 岡野 弘彦 選 】


   透けてきてラムネのビンに入る地球     小西 雅子

 ひとしきり立ちのぼった炭酸の泡が引いてゆく。すると、ビンの中のガラス玉に映っているものがある。砂浜のパラソル、空をゆく白い雲、海のかなたの緑の島。そのすべてをひっくるめて地球といえたときは、さすがにうれしいだろう。                                     
                            【 四季 ・ 長谷川 櫂 】



  朧月(おぼろづき)憎まれ口も供養かな   行田市 松岡  博  

男同士では確かにそんな悼み方をすることがある。「まったくあいつは」といった、親しい仲だからこその憎まれ口。女が男を羨ましいと思うのは、こんな時である。                         【 正木 ゆう子 選 】


 黄色おびし春の満月浮かびをりわが身の内の無精卵に似て
                            横浜市  古山 智子
 
こういう歌を見ると女性の力に圧倒される。古代から女性は月の満ち欠けと交響しあい、地母神として万物生成の命の母体であり、生殺与奪の力を備えた存在であった。                   【 岡野 弘彦 選 】



   安吾読む落第のころ懐かしく     東京都  望月 清彦

坂口安吾の文学は弱者に優しい。世の中を下から見ている。 作者は苦かった青春時代を「落第」という季語で思い出している。 【 矢島 渚男 選 】


  呼べばまだ間に合ひそうな朧(おぼろ)の夜   さいたま市 藤井  恵

朧のなかへ消えてゆく影をみて、呼び返せばまだ間に合いそうだ、と一瞬思う。誰を、だろうか。果たして呼び返したのだろうか。たおやかな余韻がある。
                               【 矢島 渚男 選 】


   暖かや顔は心の遊び場所     香取市 関  沼男

顔の表情というのは心が遊んでいるのだという。 「顔は心の遊び場所」、か。なるほどな、面白いことを言うなと思う。作者は84歳。       
                               【 矢島 渚男 選 】


  離婚して村去る妻を空港に見送る牛飼ひに春の雪舞ふ
                            稚内市 藤林 正則

離婚した元妻を空港まで見送りにくる元夫に感動した。なかなかできないことだろう。 寒地の農業は甘いものでなかった。 それぞれの人生を生きてゆく。                              【 小池  光 選 】


   春さびし蕗の古葉に夜のあめ    大江丸(おおえまる)

夜の庭から蕗の葉を叩く雨音が聞こえる。春も更けると、蕗は丸い葉を広げる。それに雨粒が当たってポツポツと音を立てる。大江丸は部屋にいて聞くともなしに聞いているのだろう。句には音と一言も書いてないが、雨の音を詠んだ句。                         【 四季 ・ 長谷川 櫂 】


 ひしひしと身に迫り来る夜の桜皮膚掠め行く何ものかあり
                           稲城市  山口 佳紀

異様なまでにうつくしい満開の花、まして夜桜ならば。わが身を掠(かす)め過ぎる何ものかがある。何ものかは知らぬ。 桜の歌はたくさんあったが今回もっとも印象に残った。                   【 小池  光 選 】


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