目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   スコールは父の無念と思うべし  上尾市  沖  みさ

前書きが句の説明になっている例が多いので、よほどでないといただかないのだが、この句の「サイパンにて」は無視できぬと思った。かつての激戦地サイパン。作者と同じ思いを持つかたもあろう。      【 宇多 喜代子 選 】


  おしゃべりのための緑陰3平方米   名取市  田村  直

「おしゃべり」というような口語表現は俳句には向かないが、この句ではうまく生かした。「3平方米(へいべい)」という詩にはとうてい入らないような語と響きあっている。この緑陰の広さ、たしかに涼しい。     【 小澤  實 選 】


【 09.09.02 読売俳壇  正木 ゆう子 選 】
 
   核全廃日本発進原爆忌   諫早市  大串  崇 
この夏は原爆忌の投句が例年より多かった。オバマ大統領の核廃絶宣言に力を得て、唯一の被爆国としての役目を再認識する。「発進」と「発信」、どちらがいいだろう。
   
   水を打つあとは無言に祈るのみ   三原市  戸田 静雄
前句の作者は長崎、こちらは広島の人である。 万感の思いを胸に、ただ水を打つ。この水を飲ませたかった人がいるかもしれない。

   敗戦日不思議な今日の残されし   柏 市  藤崎  務
今日とは、現在の今日とも解釈できるが、戦争の終わった当日のことか。あるいはそれ以来のすべての今日。生きていてこその今日。
   


   一分の沈黙そして秋の蝶    小枝 恵美子 (こえだ えみこ)

一分間の黙祷。あの沈黙の一分間は長いか短いか。 人生の時間の中では、ほんのつかの間に過ぎないが、さまざまな思いの詰まった濃密な時間でもある。その緊張を破るかのように目の前を過ぎる無邪気な蝶。ふっと空気が流れはじめる。                   【 四季 ・ 長谷川 櫂 】



   デラシネの東京暮し金魚玉   小平市  土居ノ内 寛子

デラシネはフランス語で故郷喪失者・根無し草の意味。
この句は季語の「金魚玉」が動かない。金魚も根無し草なのだ。
江戸時代にも、<蛍とべ根無し草なる我(わが)身より>といういい句がある。放浪の生涯を酒田港に終えた常世田長翠(とこよだちょうすい)の作。     
                                   
   退屈な金魚に見せる百面相   前橋市  池畠 敏子
                               【 矢島 渚男 選 】



 夫の笑顔を横から見るのがいちばん好き他人とはなす顔を見まもる
                            大阪府  畑中冨美子

この、新妻のようにみずみずしい夫への愛の歌の作者は、八十半ばの私よりもさらに年上だから驚く。女性が若く活力ある時代、男性も活力を持たなければ。                            【 岡野 弘彦 選 】


   鶏頭のかたまつてゐる暗さかな    鶴岡市  広瀬  弘

群生している鶏頭の花。派手な花なのだが、花の襞(ひだ)、濃い紅色に感じた「暗さ」。得体のしれない怖さのようなものが伝わる句。
                              【 宇多 喜代子 選 】 


 「タンチョウの頭の赤はハゲなんよ」語るじいさま聴くもじいさま
                           高槻市  佐々木文子

のんびりゆったり、とりとめもない話。でも仙人の深遠な禅問答のようでもある。丹頂鶴の頭が赤いのはハゲなのさ。そうさ、いかにも。 それから二人でニタリとする。                       【 岡野 弘彦 選 】


 大切なことなどみんな忘れたりそれでも生きて飯のうまさよ
                           東京都  白木 静子 
 
え、何事がおこったの、と思わずつりこまれて読んできて、第五句に到って、うん納得という感じ。長生きしてください。         【 岡野 弘彦 選 】


   黴ほのと一茶興ぜし大座敷     越谷市  小林ゆきお

一茶が饗応(きょうおう)を受けた座敷が保存されているのだろう。そこへ入っていくと、梅雨の折から黴(かび)の香が漂っていた。それは歴史の匂い。
                               【 矢島 渚男 選 】
   パンに黴この世に命ひしめける    福島市  高橋 十三


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