目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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梟のさみしさで泣く赤ん坊   千葉市  椿  良松

赤ん坊は喋(しゃべ)るかわりに泣く。なにがあったのか、この夜、この赤ん坊は淋(さび)しかったのだ。同じようによる鳴く梟(ふくろう)が寄り添ってくれる。
                                   【 宇多 喜代子 選 】


   元従軍看護婦からの賀状かな   東久留米市  飯山 徳次郎

厳しい戦場からのように今年も届いた一枚の賀状。「…へ書く年賀状」の投句もあったから、年賀を交わしているのだろう。忘れがたい一抹の灯火(ともしび)のような思い出。                              【 矢島 渚男 選 】


  幸せはもう望めぬと思ふわれの朝の湯飲みに茶柱が立つ
                            仙台市  阿多 真也

「人を殺(あや)めた反省を深める中で、短歌を詠み、日々の些事(さじ)にも心を留めるようになって、幸せは求めるものではなく気づくものだと思い至った」と受刑中の作者は言う。                            【 岡野 弘彦 選 】


   どちらにもつけぬと海鼠食う男   茨木市  瀬戸 順治

二つのグループが争っている。酒席で参加を誘うと、「どちらにもつけぬ」という回答である。海鼠(なまこ)という食べ物が性格を暗示する。     
【 小澤  實 選 】


   この山河残せ残せと五郎助ホウ   秋田市  中村 栄一

梟(ふくろう)の泣き声はいろいろに聞きなされているが、ゴロスケホウは代表的なひとつ。それを耳にするたび、彼らが美しい自然を今のまま、いつまでも残して置いて欲しいと訴えているように聞こえてくる。              【 矢島 渚男 選 】


   朴の葉のぶつきらぼうに落ちにけり   霧島市  久野 茂樹

ちらちらとでもなく、はらはらとでもなく、バサッと真下に落ちる大きな葉っぱ。 しかしそれだからこそ俳句に詠めば、俳味横溢(おういつ)。     【 正木 ゆう子 選 】


雪囲い男結びの手の記憶   酒田市  佐藤 豊光

大掛かりな冬支度である。雪囲いの要所要所を縄で結ぶ。年に一度のことであるのに手が手順を覚えている。洗練された風土詠だ。     【 宇多 喜代子 選 】


   小春日を妻の歩幅で歩きけり   神奈川県  中村 昌男

妻の足はおそく、ともに歩く身にはもどかしいところ。読む者みんなに「いい御夫婦だなあ」と感じさせる。そう感じさせるのは夫たる作者の優しさと、「小春日」。
                                   【 宇多 喜代子 選 】


   55階新宿に雪落ちてゆく   小田原市  北見 鳩彦

高層ビルから、眼下の街へと落下する雪を見下ろしている。作者の居る空中は、新宿であって新宿でない。                   【 正木 ゆう子 選 】


   駅を出て一人に一つ冬の月   柏市  藤嶋  務

お勤めからの帰りだろう。 幾人かが下車して駅の外に出る。 それまでの不思議な連帯からそれて一人になる。 そんな感慨を抱き、それぞれの帰路につく。
                                  【 宇多 喜代子 選 】


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