目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   寝そべれば春風吾を見失ふ   上尾市  中野 博夫

草に寝そべると、風はもっと上を吹いて、作者は風を感じなくなったのだろう。風の方で作者を見失ったとする逆転の表現が、優しい春風に甘えているようだ。                             【 正木ゆう子 選 】



 咲き初めし梅の花にも雪降りぬ寂しい時には寂しいと言へ
                          青梅市  諸井 末男

たとえ梅が咲いたとしても、寒い時には雪だって遠慮せずに降るものだ・・・。寂しさをこらえる相手への思いやりが、結句の命令形に切なくにじむ。
                                【俵 万智 選 】



   倖せはこんな匂ひよ目刺焼く   和歌山市  堀江 和子

目刺は今は年中出まわっているけれど春が旬である。朝食にそれを焼きながら、幸せはこんな匂いだと思う。懐かしい暮らしの匂い。 
                               【 矢島 渚男 選 】


  本家分家墓みな同じ雪被(かぶ)る   大分市  二階堂 紅雲

人より家が大事であった昔、本家と分家にはおのずからなる格差があった。墓に入った人たちの中には泣いた人もあったろう。そんな墓に雪が平等に降る。                           【 宇多 喜代子 選 】


 パチンコの最後の玉がなくなってさりげない顔できてから立つ
                           横浜市  中村 秀夫

パチンコ愛好家なら思わずうなずく場面。コンチクショウの表情をかき消して、悠然と席を立つべし。武士のたしなみとでもいうべき。何事にも作法がある。
                               【 小池  光 選 】


  たまにはな人間をやめポチになれ狼になれライオンになれ
                           奈良市  山口 洋一

                               【 小池  光 選 】


    涅槃図に一点紅し蛇の舌    国分寺市  越前 春生

釈迦の寂滅を描いた涅槃図には人間はもとより、たくさんの動物たちが参集している。そこに一点の紅。それはなんと蛇の舌だった。蛇までも仏の死を嘆いていたという驚き。                    【 矢島 渚男 選 】


  この騒ぐこころ鎮めむと出でくれば空かき暗し雪ふりしきる
                          稲城市  山口 佳紀

家庭で心の擾乱(じょうらん)することがあって出てはきたものの、外はさらに暗澹(あんたん)たる冬の荒天。雪の広野にゆきくれた旅人のように、よるべない心の鎮まりを何処に求めようか。          【 岡野 弘彦 選 】



  雨の日に栓止められる噴水はわかっていても淋しいのである
                          日進市  松尾 和男

雨の日に噴水を出すのは確かに無駄かもしれない。 だが雨は雨、噴水は噴水。止めてしまうのは合理的すぎて味気ないと思う。「淋しいのである」に共感を覚えた。                      【 栗木 京子 選 】


   若者の歩幅の残る春の雪    千葉市  中村 重雄

春になってからの雪が淡く積もっている。誰かが足跡をつけている。歩幅からしてどうやら若者のようだ。がっしりした体躯の若者を彷彿とさせる句。 
                             【 宇多 喜代子 選 】


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