目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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  日記書く妻が漢字を聞くたびに試されてゐる我かもしれず
                        鹿児島市  杉村 幸雄

試されているのは、知識だけではない。 聞かれる漢字によっては、内容が類推されてどきっとすることもあるだおう。平和な一コマに見えて、スリリングなひととき。                           【 俵 万智 選 】


   百万本の中に母いる秋桜    入間市 田之上 ヨリ子

一面のコスモスの中に母がいるという現実とも幻想ともまがう景だが、それもゆらゆら揺れるコスモスの生むもの。          【 宇多 喜代子 選 】


   吹く風に翅とぢかねて秋の蝶    東京都  望月 清彦

吹く風に身を倒されそうになっている秋の蝶。 同じような秋蝶の哀れに心をとめたことはあっても、「とぢかねて」まで見届ける人は少ない。     【 正木 ゆう子 選 】
  
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   凍蝶(いてちょう)も焚(た)いてしまつたかも知れぬ   仙田 洋子

落ち葉を焚きながら思ったのだ。 その中に凍えた蝶がまぎれていたかもしれない。 翅(はね)をたたみ、もはや飛ぶこともない。かといって命がないわけではない。魂だけが飛びたってゆくのをじっと待っている、ひとひらの落ち葉のような冬の蝶。            
                    【 読売08.12.01夕刊 ・ 四季 ・ 長谷川 櫂 】
 
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   もはや人畏れぬことも秋の蝶   神奈川県  西田 克憲

畏(おそ)れないのは、逞(たくま)しいからでも大胆だからでもない。 もう人を畏れる余裕さえなくなった秋の蝶の捨て身の哀れ。作者の優しく鋭い視線が感じられる。              【 09.11.02 正木 ゆう子 選 】

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   秋蝶のしきりに見ゆる素十の忌   横浜市  小林 千秋

<方丈の大庇より春の蝶><秋蝶の人のうしろに美しき>など、高野素十には、「蝶」「秋の蝶」の句が多い。秋の蝶に素十のことを思い出した。否、その忌日に蝶のことを思い出したのだ。素十忌は10月4日。
                     【 10.11.01 宇多 喜代子 選 】


   縁側に出て名月の人となる   町田市  枝沢 聖文 

縁側に出て、かがやきわたる名月を仰ぐ。そして、名月の光を全身に浴びる。酒好きなら酒も用意したい。それを「名月の人となる」と称しているのだ。
                               【 小澤  實 選  】


   秋の夜の魚の長さに魚の皿   秋田市  中村 栄一

書かれてはいないが、一読、秋刀魚とその尻尾を容れた皿が見えてきた。四つの「の」に、一つの「に」が効果的。        【 宇多 喜代子 選 】


   四角田に四角に咲いて彼岸花    三重県  川村 佳子

彼岸がくれば約束のように曼珠沙華が咲く。四角の田を囲む畦にびっしり咲いているのか。愛らしい花ではないのだが、なぜか懐かしい花だ。
                              【 宇多 喜代子 選 】


 曼珠沙華橋のたもとに咲いてゐる独り遊びをする子のやうに 
                           青梅市  諸井 末男

曼珠沙華は群れて咲くものなので、はじめはピンとこない比喩だった。 が、この寂しさは、子供がいない風景ゆえなのだと気づく。曼珠沙華は、子供を待っているのだ。                       【 俵 万智 選 】


  褒められき十歳の日の秣(まぐさ)刈   東京都  市川  廉

初めて一人前の仕事を与えられ、やり遂げた日。疲れと、褒められた嬉しさに深く眠った夜。 少年時代のこの一日によって、作者は一生分の自信を得たのかもしれない。                   【 正木 ゆう子 選 】



  樹も声を幽(かす)かに混ぜて法師蝉   神奈川県  西田 克憲

この句のように感じたことはないが、こんな独特の感覚を知るのは楽しい。蝉が鳴くと、樹木もそっと唄いたくなるのかもしれない。  【 正木 ゆう子 選 】


   颱風のあとの魚臭や港町     山形市  渡辺 輝雄 

台風の後、港町にどうして魚臭が強く漂うのか、僕にはわからない。しかし、その強烈な悪臭によって、風土の一面をたしかに捉えていると思うのだ。
                               【 小澤  實 選  】


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