目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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   月見草誰も待たずに開きけり   さいたま市  仙波 法明

そもそも花が誰かを待って開くという発想が新鮮。しかし月見草は待たない、というのだ。確かに月見草の時の流れは繊細この上なくて、誰も関与できそうにない。                          【 正木 ゆう子 選 】



   わが心非売品です彼岸花   大和郡山市  宮本 陶生

一見当たり前の事を言っているような句。しかしよく考えればそうでもないのが世の中。本当に魂を売っていないか、わが身を振り返る。 
                               【 正木 ゆう子 選 】



   灯火親し大型犬も側にゐて   秩父市  中島 由美子

秋灯の下、読書をしている。傍らにはかわいがっている大型犬も控えているが、静かにしている。本を読みつつ、愛犬に目をやる幸せ。【小澤  實 選】


  老いらくの恋のかなしみ載せやりし笹の小舟の行方は何処(いずこ)
                         南相馬市  鳶 新一郎

そこはかとなく可憐で切ない、老いの恋歌。少年よりみずみずしい、老年のひっそりした思いの行くてはいずこ。            【 岡野 弘彦 選 】


  てんでんこにはあらずして夢のなかエゴイストわれの真っ先に逃ぐ
                           今治市  品部 弥生  

「てんでんこ」は「それぞればらばらに」の意味。「津波てんでんこの教え」を
守った釜石市の中学校では、各自が迅速に避難することができた。
自己中心的にならずに自己責任を貫くことは難しい。とりわけ夢の中では。
                               【 栗木 京子 選 】


   八十に八十の顔秋澄めり   調布市  川井 政子

喜怒哀楽を経てこそ授かったいい顔。老醜隠し難しではあっても、心境は「秋澄めり」に通ずる。易々と生きてきた八十年ではない。
                              【 宇多 喜代子 選 】


   三歳の記憶の全て曼珠沙華   浜松市  川島 靖子

幼い頃の記憶は殆ど残らないだけに強い。 曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の鮮烈な赤。 そのとき初めて作者は自然の美しさを知ったのだろう。人生で最初の記憶は誰にもあって、大切。           【 正木 ゆう子 選 】



   見てゐれば金魚見られてゐる気配   佐野市  村野 則高

水槽に金魚。こちらがじっと見ていると相手も視線を意識してポーズをとっているように感じられる。お互いに孤独なのだろうか。   【 矢島 渚男 選 】


  目を閉じて蝉の鳴き声きいており石の仏になる心地する
                          生駒市  宮田  修

芭蕉の「閑(しずか)さや岩にしみ入(いる)蝉の声」が発想の底にあるだろう。つぶやいていると、この下の句の持つ気分が、読者の心に伝わってきて、しずかな思いに引き入れられる。             
【 岡野 弘彦 選 】


  鼻曲るほど嗅ぎ分けて鮭遡(のぼ)る   村上市  川村 雄一

産まれ故郷の川を遡上する生殖期の雄は上顎が伸びて曲る。鼻曲鮭で、これは水を嗅ぎ分けるためになるのではないが、こう断定されるとそうも思えてくるのは、その帰巣本能の哀れにほだされるからか。 【 矢島 渚男 選 】


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