蝦蟇（がま）早く出でよ日食近づけり

　　　蝦蟇（がま）早く出でよ日食近づけり　　　四街道市　　須崎　輝男

季節ごとに庭に生き物が現れるのは楽しいもの。 蝦蟇はことに趣がある。　
共に日食を見ようというわけでもないだろうが、日食との取り合わせが、思いがけない面白さ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【 正木 ゆう子 選 】

毛を刈られ羊暫く人嫌い

　　　毛を刈られ羊暫（しばら）く人嫌い　　　松山市　　松友　道子

剪毛は春の季語。あまりみる機会がなく、ましてこんな場面の描写は貴重である。暫（しばら）くたったらウラミを忘れるところが、微笑ましい。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　【 正木 ゆう子 選 】

柴又や草団子こそかなしけれ

　　　柴又や草団子こそかなしけれ　　　松戸市　　和田　　俊

寅さん映画でお馴染みの柴又帝釈天。茶店で名物の草団子を食べながら 「かなしけれ」と詠嘆する。悲しいのか、愛しいのか、漢字では書けない。青春の思い出があるのだろうか。寅さんへの愛惜の情か。 「こそ」が効いている。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【 矢島　渚男 選 】

手づかみのカステラ旨し春の空

　　　手づかみのカステラ旨し春の空　　　仙台市　　石川　初子

そうだ、カステラを買って空の下で食べよう！と思い立つ人が出現しそうに美味しそうな句。お行儀はこのさい不問ということにして。　【 正木 ゆう子 選 】

あと一つあともうひとつ待ってみる母へとかける呼び出しの音

　　あと一つあともうひとつ待ってみる母へとかける呼び出しの音
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　船橋市　　田中　澄子

よっこらしょと腰をあげたところかもしれない、 洗濯をしていて音が聞こえないのかもしれない・・・ 母の今の様子を想像しながら待つ感じが、 とてもよく　伝わってくる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【 俵　　万智 選 】

友できて少年の夏はじまりぬ

【 正木　ゆう子 選 】
　　　友できて少年の夏はじまりぬ　　　可児市　　羽貝　昌夫

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【参照　08.09.11】
　　　夜光虫親より友を選びし日　　　広島市　　佐保　光俊

親が絶対だった子供時代から、思春期に入って、初めて友達を優先した思い出だろう。親が止めるのを聞かず、夜の海へ行って見た神秘の煌（きら）めき。季語が抜群に効いている。　　　　　　　　　　　　　【 正木　ゆう子 選 】

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【参照　10.09.06】
　　　先輩に挨拶をするわが孫は今われ知らぬ少年になる
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青梅市　　石井　武美

礼儀正しく、少し緊張しながら先輩に挨拶（あいさつ）する孫。家族とはまた違った社会の中で生きる少年の姿が見える。下句が新鮮。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【 栗木　京子 選 】

濡れ縁のやはらかき雨ゆきやなぎ

　　　濡れ縁のやはらかき雨ゆきやなぎ　　　我孫子市　　前田　寿雄

雨戸の外にある雨ざらしの濡れ縁は、家と外の中間のような場所。
それゆえに雨にも近く、木々にも近く、ぼんやりするには打ってつけ。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【 正木 ゆう子 選 】

歩いてるやうな「母」の字聖五月

　　　歩いてるやうな「母」の字聖五月　　　京都市　　峰尾　秀之
　　
そう言われれば真ん中の横棒が左右の腕、右下のはみ出た部分が両足に見えないこともない。ちょっと太めで忙しそうな母の姿。　【 正木 ゆう子 選 】

花筏ゆつくり日本どこへ行く

　　　花筏ゆつくり日本どこへ行く　　　下田市　　和泉　　好

ゆるゆるとかたちを変える花筏（いかだ）。　それにつけても、案じられるのは日本。どこへ行くのだろう。　　　　　　　　　　　　　　　【 宇多　喜代子 選 】

今度いつ会へるか蓬摘みにけり

　　　今度いつ会へるか蓬摘みにけり　　　日高市　　金沢　高栄

久しぶりに帰った子に、蓬（よもぎ）を摘んで草餅をつくってやる。　次はいつ会えるのか。優しい気持ちが伝わる。　　　　　　　　　　【 矢島　渚男 選 】