目についた記事を、その時々に書き込むつもりです。
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  星のごと七夕の夜にまみえむか亡き夫の星またたきたまえ
                        四街道市  出浦 章子

七夕の夜に星に祈りの歌をささげるのは日本古来の風習。何の言葉のあやもなく、無心な童女のように、先に逝った夫にまた逢(あ)うことを願っている。下の句の、幼いようでひたすらな願いが、心もとなくゆらぐ思いを伝えてあわれ深い。こういう七夕の歌を世々の女性は歌い継いできたのだった。
                               【 岡野 弘彦 選 】 

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  二十二で母の葬儀を出す君は覚えたばかりの敬語で話す
                        名古屋市  山本  望

22歳で母を喪(うしな)った若き喪主。 葬儀の挨拶(あいさつ)を悲しみをこらえて一生懸命に話す。敬語がまだぎこちない。それがかえって列席者の胸を打つ。ことばの深さである。私も23歳のとき父を亡くして同じような経験をした。「覚えたばかりの敬語」という表現がとても利いている。
                                【 小池  光 選 】

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  着飾りて梅園行きのバスを待つ老乙女らの後ろに並ぶ
                           光市  宮本  輝

一般に「乙女」は若い女性を意味するが、老いても華やかな人を見ると「老乙女」と呼んでみたくなる。折りしも梅の花の咲く季節。春を迎える初々しい気分がバスを待つ人たちを包んでいる。さりげなく置かれた結句も味わい深い。この一年、高齢の方々のパワーに触発されることがじつに多かった。
                               【 栗木 京子 選 】

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  神さまがけんけんぱあをするように島のおかれている春の海
                         東京都  小菅 暢子

「けんけんぱあ」が効いている。 神様も遊びたくなるような春ののどかさ。
スケールが大きいという言い方では物足りない。 風景をとらえる心の目が、大きいのだ。小菅さんには、スカイツリーと月を剣玉にたとえる一首もあった。投稿者にもファンが多く、小菅さんのことを詠んだ歌がしばしば届く。 
                               【 俵  万智 選 】



   われあるがゆゑに昇れる初日かな   千葉市  中村 重雄

自分が居なくても世界は存在する。 しかし自分にとっては、自分が居るからこそ、世界も存在する。 どちらも真理。 考えてみれば不思議。 
                               【 正木 ゆう子 選 】


  妻よ出来(でか)したぞ十年日記果つ   千葉県  菅谷 貞夫

十年書ききるのが当然なら、こうは詠まないだろう。 句の後ろにあるのは、十年を生ききったという思い。八・九音の破調に思いが溢れる。
                               【 正木 ゆう子 選 】


  蕪蒸(かぶらむし)小沢昭一もう聞けぬ   東京都  山口 照男

暮れに小沢昭一さんが亡くなられた。 語りの見事さはもとより、埋もれゆく貴重な演芸史を書き遺した。伝統の蕪蒸しの取り合わせが巧み。
                               【 矢島 渚男 選 】


  老い先を思いめぐらし寝つかれずそのままさむき朝をむかえぬ
                          京都市  高橋 雅雄

例年になく厳しい寒さは老いの身には沁(し)みる。寝つかれぬまま思いめぐらすのは、予測しがたい世の変化と定めがたい身のよるべであることは、昔も今も変わらない。                      【 岡野 弘彦 選 】 


   大陸の涯なき枯野逃れきし   埼玉県  酒井 忠正

敗戦時の満州からの引き揚げ体験を詠う。「涯(はて)なき枯野」が冷(すさ)まじい。たくさんの犠牲者たちを置き去りに追われ追われて逃げて来た。重い感慨のこもった秀句である。             【 矢島 渚男 選 】


   寒林に入りて足音止めてみる   宮城県  藤井 儀和

落葉を踏むわが足音を止めたら、どんな静けさか。 そう思って立ち止まったことが、自分にもあったような。一句の後に静寂が広がる。
                               【 正木 ゆう子 選 】


  雪中に追憶の河横たはる   文挟 夫佐恵 (ふばさみ ふさえ)

降りしきる雪の中、大きな河(かわ)が流れている。ここに描かれているのは現実の景色でありながら、そればかりではない。追憶という河が流れているというのだ。 たゆたい、せせらぎながら流れる人間の記憶、 あるいは人類の記憶という大河。       【 '12.12.31 四季 ・ 長谷川  櫂 選 】


   冬至風呂ゆらぐ命を温めけり   可児市  羽貝 昌夫

ゆらぐ命とは、体調が万全でないことだろうか。揺らいでも、命は今しっかりと完璧な命。わが命をしみじみと抱きしめるような句だ。 【 正木 ゆう子 選 】


  久しぶり大きな声で母が笑う歯のなき口をまん丸くあけ
                      佐世保市  近藤 福代

ちょっと無雑作なほど自然に、母の爛漫(らんまん)たる笑顔をとらえて一気に歌っている。 読む者は誰しも、 この無心の笑いに引きこまれてゆくようで楽しくなる。                        【 岡野 弘彦 選 】  

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平成25年1月16日に行われる 「歌会始の儀」 で 「召人(めしうど)」 に選ばれた由、おめでとうございます。


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